今シーズンは思う存分、野球をやって、どんな結果が出ても最後の1年にするつもりでした。社会人野球を辞め、地元・福岡に戻って今年が2年目。「どんなことがあってもくじけず、思い切ってやろう」。1打席1打席集中した結果が、首位打者(打率.361)につながったのだと思います。
 シーズン終了後、NPBと対戦したフェニックス・リーグでも結果を残し、自分の中ではドラフト指名への手ごたえはありました。ところが直前になっても、声をかけてくれる球団は現れません。当日も期待して会議の様子をチェックしましたが、結局、最後まで名前は呼ばれませんでした。

「まだまだ諦めきれないな」
 ドラフトが終わった瞬間、そう考えている自分がいました。僕は今年で26歳です。NPBに行くとすれば、即戦力としてアピールする必要があります。そのためには1年限りではなく、継続して結果を残すことも求められるでしょう。いずれにしてもNPBに行くには何かが足りなかったことは事実です。「もう1年、チャレンジしてみたい」。こうしてラストイヤーを1年、先にすることを決めました。

 僕の出身高校は福岡の強豪・東筑高。進学した立命館大では主将を務め、4番も打たせてもらいました。「プロ野球選手になる」との夢に向かって順調そうに思えた野球人生がつまづいたのは社会人のJR東海に入ってから。光原逸裕さんや中山慎也さん(いずれもオリックス)といったNPB選手を輩出しているチームだけに、プロに行くための指導もしていただけると思い、入社しました。

 ところが、いざ入ってみるとチームの方針は「ここはNPBを目指す場所ではない」というもの。正直、社会人はプロへのステップと捉えていた自分にとって、チームプレーばかりを徹底される練習には納得がいかない部分がありました。社会人の2年目はケガで試合に出られなかったこともあり、「このままではいけない」との思いは強くなる一方でした。そんな時、地元にアイランドリーグのチームができたことを知りました。夢に一歩でも近づけるなら、お金はいりません。会社を離れ、レッドワーブラーズにお世話になることを決めました。

 今ではアイランドリーグに入って良かったと心から思っています。何よりフェニックスリーグや交流戦を通じて、NPBと対戦する中で自分の実力を試せたことは大きな財産です。今年のフェニックスリーグでは、クライマックスシリーズのために調整中だった日本ハムの藤井秀悟投手とも対戦しました。1軍で活躍している主力投手だけに、どんなボールを投げるのかと思っていたのですが、意外と見極められました。「NPBともそんなに差はないかもしれない」。またひとつ自信が生まれたように感じています。

 一方でNPBとの差を感じる場面もありました。たとえば、同じ日本ハムの中田翔。対戦した試合ではバットの先っぽで軽々とバックスクリーンに運ばれました。彼は一見、不真面目なイメージがあるものの、試合前後にはとんでもないハードな練習をこなしています。素質だけではなく、練習量でも僕たちは勝てていません。それでもまだ2軍の選手なのですから、NPBの壁の厚さを実感します。

 バッティングで参考にしてきたのは、同郷の後輩、吉村裕基(横浜)です。最初に出会ったのは彼が東福岡学園1年の時。右方向にホームランを打ったのを見て、ビックリしました。それまで逆方向にあんな大きな当たりを打てる選手を間近に見たことがなかったからです。それ以来、年下ながら彼は目標の存在となりました。それは今も変わりません。引っ張りはもちろん、流しても大きい打球を打つ。これは常に意識しています。

 アイランドリーグに来て、野球に対する考え方も少しづつ変わってきました。それまでは個人成績をアップさせることばかり追い求めていた自分が、チームの中での役割を考えるようになったのです。長いリーグ戦を戦っていると、個人成績はもちろん、チームが勝たないとおもしろくありません。とはいえひとりの力で野球はできないもの。勝利のために与えられたポジションでやるべき仕事を確実にこなすことが、結果的に個人成績にもはね返ってくる。そんな気持ちでプレーするようになりました。

 今回、福岡は来季の公式戦不参加が決まり、選手たちは残りの5球団に分配され、バラバラになりました。僕は来季より香川でプレーします。自分の所属していたチームがなくなるのは初めての経験で、最初はとまどいがありましたが、野球をすることに変わりはありません。今は獲得していただいた香川のために恩返しをしたいと強く思っています。

 今季は打撃面ではいい成績を残せたものの、守備や走塁に関しては課題が残りました。サードの守りは早出で特訓していただいたにもかかわらず、不安定でファーストに回されることもよくありました。NPBに行くにあたって、打って守れるサードは大きなアピールポイント。こちらは力を入れて練習したいと考えています。走塁面でも、僕は決して足の遅いランナーではありません。もっと走塁技術を磨けば、スピードもあることをスカウトのみなさんに印象づけられるはずです。

 もう来年のドラフト会議までは1年を切りました。悔いなく1日1日を過ごし、2010年こそは夢をかなえる1年にしたいものです。1年間、香川のみなさんにはお世話になります。どうぞよろしくお願いします。


中村真崇(なかむら・まさたか)プロフィール>
 1983年11月7日、福岡県出身。右投右打の内野手。東筑高を経て立命館大学では右の主砲として4番を打ち、主将も務める。その後、JR東海に進んだが、NPB入りを目指して退社。2008年9月に福岡に入団する。2年目となった今季は開幕から高打率をキープ。チームの4番に座り、リーグ史上最高の打率.361で首位打者に輝く。10月のフェニックス・リーグでもNPB相手に3試合連続でタイムリーを放つなどアピールした。来季は福岡球団の公式戦不参加により、香川に移籍。183センチ、83キロ。


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