プロスポーツ界において「ストーブ・リーグ」が繰り広げられるこの時期、愛媛FCも慌ただしい変革の時節を迎えている。その渦中、寂しいことだが、前回ご紹介した選手以外にも、愛媛FCから旅立っていく選手たちはいるのだ。
(写真:2009愛媛FCファン感謝祭、佐伯真道GMの挨拶)
 今季限りで、現役プロサッカー選手を引退することになったMF青野大介選手。期限付き移籍期間満了に伴い、レンタル元のクラブへと帰っていくことになったMF横谷繁選手やDF柴小屋雄一選手、それにGK加藤慎也選手とMF永井俊太選手(両選手は柏レイソルを退団。加藤選手はヴァンフォーレ甲府へ移籍)。クラブとの契約満了に伴い、愛媛FCを退団することになったチアゴ選手。また2009シーズン、リーグ戦において18ゴールを決めてチーム内得点王となったFW内村圭宏選手はコンサドーレ札幌へ、FWドド選手はガンバ大阪への完全移籍が決まっている。
 
 2009年12月6日(日)に行われた「愛媛FCファン感謝祭」では、その青野大介選手の引退セレモニーが行われた。
 青野選手は、愛媛県西条市の出身。愛媛FCユースチームに所属後、関西学院大学を経て、J1クラブ(ガンバ大阪、ヴィッセル神戸、アルビレックス新潟)でも活躍した選手である。愛媛県出身の選手ということもあり、地元での人気は高く、それだけに今回の引退発表を残念がるファンも多い。
 
「ファン感謝祭」会場に集まった約430人のサポーターやファンを前に青野選手は、「プロ生活の最後に、地元の愛媛でプロサッカー選手としてサッカーができたことを嬉しく思います。これからはチームに残って愛媛FCのため、愛媛のために頑張っていきたいと思います。3年間温かい声援、どうもありがとうございました」と挨拶を行った。
 その後、父親の正勝さんやご家族、サポーターから花束やプレゼントを受け取り、瞳を潤ませ、目頭を何度も手で押さえていた青野選手の表情が、とても印象的であった。

 挨拶でも語られていたが、青野選手はクラブに残り、今後、愛媛FC普及担当として
サッカースクールのコーチなどを行っていくこととなっている。現役選手とは異なる立場となるわけだが、引き続き「愛媛FC」を盛り上げるため頑張っていただきたいと思う。
 
 セレモニーが行われる前に、青野選手の父親である正勝さんと、お話しする機会があった。
「今まで応援、ありがとうございました。大介の足(膝)は、もうボロボロなんです……。彼なりに苦難に耐え、ここまで本当によく頑張ったなと思います……」
 ケガと闘い続けた現役時代、父親の発する重みのある言葉から、計り知れない苦闘の現実が感じとられ、返す言葉が見当たらなかった。

 Jリーグクラブ「愛媛FC」の誕生により、試合会場や練習施設の整備など、地域におけるサッカー競技の環境も、かなり改善されてきてはいるが、まだまだ他のJクラブと比べても後れを取っている感は否めない。プロ選手がトレーニングやリハビリを進めるには、充分とは言えない状況にある。

 青野選手もまた、その環境下において、ケガの痛みに耐え続け、最後まで頑張ってくれたのだなと思うと、いたたまれない気持ちになってくる。選手生命をも縮めかねない現在の競技環境は、愛媛FCにとっても愛媛のサッカー界にとっても、早急に取り組んでいかなければならない問題と言えるのだろう。
 
 引退や移籍、退団など、毎年のことではあるが、非常に寂しさを感じるこの時節。身や心を削り、ある意味、生活をも犠牲にしながら愛媛FCのため、選手たちは私たちの故郷のために闘い続け、新たな礎を築き、去っていく。彼らの名前や功績を未来へと伝え残していくためにも、「愛媛FC」の灯火を絶やしてはならない。そのことを改めて感じ、心に誓う別れの季節であった。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
 1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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