初めての専任指導者として秀島達哉氏が監督に就任して1年。春から取り組んできたフィジカルトレーニング、国際大会への挑戦、昨年に続いて行なわれた伊達公子選手との合同合宿……。今シーズンは新監督の下、さまざまな試みが行われてきた。その集大成として臨んだテニス日本リーグで伊予銀行男子テニス部はしっかりと結果を残した。通算成績4勝3敗、ブロック3位で見事5年ぶりの決勝トーナメント進出を決めたのだ。だが、第2ステージではまさかの3連敗。果たしてチームをどう立て直していくのか。予選リーグを振り返りながら、3週間後に控える決勝トーナメントへの意気込みを秀島監督に訊いた。
(写真:選手層のあつさで予選リーグ突破!)

「何かが足りないんでしょうね……」
 予選リーグ第2ステージを終えた翌日、総括的な感想を求めると、秀島監督はそうつぶやいた。しかし、その「何か」は指揮官にもまだはっきりとは見えていないようだ。第2ステージ、ポイントだったのは第2戦の協和発酵キリン戦だ。昨年12月の第1ステージで4連勝を飾り、決勝トーナメント進出はほぼ決定していた伊予銀行。年が明けても選手たちの調子はいい状態を保っていた。第1戦のイカイ戦は負けはしたものの、シングルスNo.1の植木竜太郎選手がプロのマーク・ニールセンにストレート勝ちを収めるという快挙を成し遂げていた。

 そして迎えた協和発酵キリン戦。秀島監督はこの試合を「大一番」と定めていた。
「第1ステージで4連勝し、もし仮に第2ステージで全敗したとしても、決勝トーナメント進出はほぼ間違いないという状況でした。しかし、だからこそ選手たちの気をもう一度引き締めるためにも、『協和発酵には絶対に勝って東京体育館に行こう!』と言っていたんです」
 いい流れで決勝トーナメントに入るためにも、伊予銀行にとっては不可欠な1勝だった。

 ところが、フタを開けてみれば、シングルス2本およびダブルスの試合はいずれも敗戦。しかも、3試合ともに1セットも取れず、ストレート負け。負けは負けでも、まさかの完敗に終わった。実は試合前の練習から選手たちの様子はいつも通りではなかった。緊張からなのか、疲労からなのか……。動きにいつものようなキレがなく、精細さが少し欠けているようにも見えていた。

(写真:2年目にしてシングルス戦に抜擢された小川選手)
 まずはシングルスNo.2の小川冬樹選手が挑んだ。第1セット、徐々に小川選手の動きがよくなっていく。ゲームカウント1−2で迎えたサービスゲーム、ダブルフォルトで40−40と並ばれると、そこから激しいポイントの奪い合いとなった。この試合1本目のサービスエースでようやくアドバンテージを取った小川選手は相手のリターンが浅く入ったところをボレーで決め、このゲームをなんとか奪った。

 これで勢いづいた小川選手は、第5ゲームをブレイク。次のサービスゲームも難なく奪い、4−2とリードした。ところが、第7ゲーム以降は集中力が切れたのか、1ゲームも取れずに結局4−6と逆転され、このセットを奪われた。第2セットも同様の流れに陥った。第4ゲームを終えたところでゲームカウント3−1とリードしながら、そこから5ゲーム連続で奪われ、ストレート負けを喫した。

「実はこの試合、小川がポイントだと見ていました。どこのチームもNo.1には強豪選手が出てくる。植木も五分五分だろうと見ていたんです。ですから小川で勝って、ダブルス勝負になるかなと。ところが、小川が意外にも左利きの相手に手こずっていた。これは左への対策をしっかりとやっておくべきだったと反省しました」

 一方、途中から隣のコートで始まったシングルスNo.1の試合で、植木選手もまた苦戦を強いられていた。序盤はゲームカウント4−1とリードを奪っていたものの、徐々にハードヒッターの相手のボールに足がついていかなくなっていった。結局タイブレイクにまでもつれた結果、この第1セット落とした。そして続く第2セット、明らかに植木選手の動きが鈍くなり、ゲームカウント1−6というまさかの展開でストレート負けを喫したのだ。

「実は前日の試合で植木は途中、足をつってしまってメディカルタイムアウトをとっているんです。なんとか試合には勝ちましたが、正直言って、それで力を使い果たしてしまっていました。彼は今年、海外遠征をはじめ、伊達公子さんの試合に帯同したり、伊達さんとダブルスで日本選手権を戦ったりと、とにかく緊張感の中でタイトなスケジュールをこなしてきました。疲労が蓄積するのも無理はありません。決勝トーナメントまで無理をさせず、しっかりと休ませたいと思っています」

 第1ステージで見事なコンビネーションを見せた萩森友寛選手と坂野俊選手が組んだダブルスは4−6、6−7と粘りを見せたものの、やはり1セットも取れずに敗戦。伊予銀行は勝たなければならない相手に完敗を喫した。
 だが、悲観することばかりではない。結果的には堂々のブロック3位。5年ぶりの決勝トーナメント進出の権利を掴み取ったのだ。「もう一度やり直そうと思っています」。秀島監督はそう言って気を引き締めた。2月11〜14日には宮崎で合宿を張る。決勝トーナメントの会場となる東京体育館のサーフェスは、横浜国際プールと同様、球足が速く、サーブを得意とし、ハードヒッターの選手が有利となる。今回の反省を踏まえ、合宿ではフィジカルとサーブの強化を中心にトレーニングを行う予定だ。
(写真:息ピッタリのプレーを見せた萩森選手<右>と坂野選手)

「このまま終わるわけにはいきませんからね。せっかく決勝トーナメントに出場できるわけですから、何かを残したい。トップチームが集まっていますから、厳しい試合になることは間違いありません。しかし、その中でも『今年の伊予銀行は違うな』と思わせたいんです。相手だって油断しているかもしれない。スキあらば、という感じで勝ちを狙っていきますよ」

 シーズンを通してなかなか調子の上がらなかったキャプテン日下部聡選手も予選リーグ最終日では萩森選手とのダブルスでライン際ぎりぎりにショットを決めるなど、本来の積極的なプレーが戻りつつある。キャプテンの復活は選手層をあつくするだけでなく、チーム全体の士気を高める起爆剤となるはずだ。

 現役時代は全チーム総当たり戦で行われていたため、決勝トーナメントは自身初体験となる秀島監督。だが、不安よりも楽しみの方が大きいようだ。「独特の雰囲気があるかもしれませんが、戦い方はリーグ戦と変わりません。なんとか強豪相手に一泡ふかしたい。そんな気分ですね」

 学生をはじめ、テニスファン・関係者が注目する日本リーグ決勝トーナメント。全国にその名を轟かせる願ってもないチャンスだ。伊予銀行男子テニス部の歴史に今、新たな1ページが加わる。


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