「オレの中では終わったこと。興味はない」
 亀田興毅は、そう話したそうだ。
 1月29日、引退がささやかれていた内藤大助が現役続行を宣言。11月に判定で敗れ、王座を奪われた相手、亀田興毅と再戦したいと口にし、ジムワークを再開した。「このままでは終われない」との思いが、内藤には強くあるのだろう。だが、再戦要求に対して、亀田の態度は冷やかだった。
 私は、真剣勝負は1回限りのものだと思っている。敗れた側が「もう1回!」と土下座をして、懇願したとしても、勝った側に受ける義務はない。闘いとは、そういうものだろう。「リターンマッチ」とか「リベンジ」という言葉は好きではない。1回限りだからこそ、その勝敗に大きな価値と意味があるのだ。

 しかし、今回の内藤大助と亀田興毅のケースに限っては、「再戦の必要なし」とは思えない。むしろ、やって然るべきだろう。
 内藤と亀田は、言い換えれば内藤と亀田家は、既に2度闘っている。
 初対決は2007年10月11日、内藤VS亀田大毅。物議を醸したWBC世界フライ級タイトルマッチ、内藤にとっての初防衛戦だった。

 キャリア、力量で劣る大毅はフルラウンドを通じて内藤に翻弄された。そして窮地に立たされた終盤、大毅は反則を繰り返した。
 セコンドはついていた父・亀田史郎は言った。
「玉、打ったらええねん!」
 同じくセコンドについていた兄・興毅も、こう口にしていた。
「ヒジでもいいから目に入れろ!」
 それらの声は、テレビ中継の音声に拾われた。これは大毅個人ではなく、亀田家が犯した反則行為。ボクシングという競技を冒涜する、あまりにも醜いシーンだった。
 
「試合前のレフェリーのルール説明の時に、(史郎氏が)突っかかってきて『てめえ、この野郎』とか言っている。脅しですよ。ボクシングは町の喧嘩じゃなくてスポーツなんですから。もうこんなんなら、亀田兄弟とはやりたくないですね」
 大毅に勝利した後、内藤は、そう話していた。それでも亀田家が謝罪会見(大毅は無言)を開くと、内藤は選手生命を断たれかねない反則攻撃を見舞われたにもかかわらず、「もう終わったことだから」とやさしさをみせた。そして、興毅の挑戦も受けたのである。

 そんな内藤が、いま「もちろん次こそラスト。負けたら引退」と言っているのだ。それに対して、「興味はない」で終わらせようとする興毅のやり方は狡いと私は感じる。昨年11月の両者の闘いは、テレビ視聴率43.1%(2009年最高)をマークした。国民が期待しているのだから、もう一度やれ、視聴率が取れるのだから、もう一度やらないともったいないと言っているのではない。初防衛戦のポンサクレック・ウォンジョンカムに勝利したならば、亀田興毅は男のケジメとして、もう一度、内藤大助と闘うべきである。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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