プロ野球選手として大成する条件は何か。
 ピッチャーならボールが遅いよりは速い方がいいだろう。コントロールが悪いよりは良い方がいいだろう。

 バッターなら飛距離がないよりはあった方がいい。足が遅いよりは速い方がいいに決まっている。
 しかし、それらは成功するための「必要条件」ではあっても「十分条件」ではない。ツウの見方として私は「用具を大切にするか否か」をあげてみたい。

 長嶋茂雄が自著『野球は人生そのものだ』(日本経済新聞出版社)でこう書いている。
<選手の晩年でもバットの芯のところを牛骨でよくなでた。牛骨でなでると、牛骨の脂がウッズの目に染み込み、そのあとを布でサァッと乾拭きすると、ピカピカになる。
 見ただけで打てそうな気がする。こういうことをすればバットに対する愛情もわくし、以心伝心というのか、用具にそれだけ愛情と執着を注げば、必ず結果が出るだろうと思った。だからプロ選手になってロッカーと我が家に牛骨を欠かしたことはない>
 そう言えば息子(一茂)を球場に忘れても、ミスターがバットを忘れて帰ったという話は聞いたことがない。用具への「愛情と執着」がミスターを大打者に育て上げたのだ。

 三冠王3度の落合博満(現中日監督)もバットへのこだわりは尋常ではなかった。
 梅雨時、湿気を含むためバットは若干、重くなる。必然的にスイングも鈍る。落合はそれを防ぐためジュラルミンのケースの中にバットを保管していた。
 最近ではイチローが“良き手本”か。数年前、バッターボックス付近に置いてきたバットをアンパイアが足でどかし、血相を変えて怒ったことがあった。イチローにとってバットは自分の魂も同然なのだろう。

 どのルーキーが用具にこだわりを持ち、大切に扱っているか。キャンプではそのあたりに、目を配りたい。

<この原稿は2010年3月1日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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