東京ヤクルトスワローズのサウスポー石川雅規が復活した原因はシュートをマスターしたことだった。

 3年前の夏、成績不振で2軍落ちした石川は編成部(当時)の安田猛から人差し指と中指で縫い目をまたぐようにして握り、中指と薬指の間からボールを抜く独特のシュートを教わった。
 これにより左バッターが踏み込めなくなり、その相乗効果で外へ逃げていくスライダーも輝きを取り戻した。
 このように不振にあえいでいたピッチャーがシュートを覚えたことで立ち直った例は過去にもたくさんある。

 同じスワローズでは元エースの川崎憲次郎がそうだ。
 速球派の川崎が右ヒジにメスを入れたのは95年のオフ。恥骨を削り取り、ヒジに埋めた。リハビリに専念したため、翌年のシーズンはわずか5試合にしか登板していない。
 もう昔のような150キロを超えるスピードボールは投げられない。どうやって、この世界で生き残っていくか。
 悩んでいたある日、監督の野村克也(当時)が、こう声をかけた。
「なんでオマエ、シュート投げないんや。最近のバッターはシュート打てんぞ」
 さらに、野村は続けた。
「右バッターの立場からすれば真っすぐがインコースにくれば、こちらはごちそうさまや。ところが、そこからちょっと食い込まれると、これほど打ちにくいボールはないんや」

 傷心の川崎は野村の指示に従ってシュートを覚えた。川崎によれば、その日を境に人生が劇的に変わったという。
「思いどおりのコースにゴロを打たせ、ゲッツーをとる。野球って、こんなに楽しいものかって……」
 昔から「シュートはヒジに悪い」という言い伝えがあるが、元シュートピッチャーの西本聖(現千葉ロッテ投手コーチ)は「正しい投げ方をすればヒジは故障しない」と語っていた。今こそシュートの効能を見直すべきだろう。

<この原稿は2010年3月29日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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