亀田興毅がポンサクレック・ウォンジョンカムに完敗を喫したWBC世界フライ級タイトルマッチを観た後、時間を置いてから考え込んでしまった。
 それは、試合内容のことでも、5ラウンドのバッティングのことでも、試合後に興毅の父・亀田史郎がまた騒ぎを起こしたことでもない。
 この試合は、TBS系列で全国に生中継され、視聴率は22.1%だった。これは同日にフジテレビ系列で放映された『世界フィギュアスケート選手権2010女子ショートプログラム(浅田真央出場)』の19.9%を上回る好数字である。にもかかわらず、試合会場となった有明コロシアムには異常なほどに空席が目立った。1万人近く収容できるはずの同会場に集まった観客は僅かに1900人。これも主催者から発表されたものだから、実際にはもっと少なかったと推測できる。
 視聴率22.1%、なのに観客動員は1900人。このギャップについて考えてしまったのだ。

 テレビ放映はボクシングの(あるいは格闘技全体の)発展を考える上で必要である。実際、大衆に対してテレビの持つ影響力は大きい。以前、納豆を食べると若返ると伝える番組が放送された翌日、スーパーの商品棚が空になったことがあった。最近では、辛くないラー油が情報番組で取り上げられ同じように人気になり、多くのスーパーで現在、品切れ状態のようだ。亀田兄弟も、テレビの力を無くして、ここまでメジャーな存在になれなかっただろう。

 だが、テレビによって広まった人気というのは当てにならないものでもある。一過性のものであると同時に、観る側が、その本質に迫ろうとするものでもない。もしも、これまでテレビで放映されてきたことによって、多くのファンが亀田のボクシングに深く興味を抱いたとしたならば、初防衛戦の観衆が1900人ということはなかっただろう。

 もともと格闘技関係者は、人気を博すためにテレビというメディアを利用しようと考えていたはずだ。しかし、逆にテレビに格闘技が利用されているのが現状ではないか。亀田のキャラクターは浮き立っても、それがボクシングの魅力を伝えることにはつながっていないように思う。これは総合格闘技『DREAM』も同じで、視聴率稼ぎのために、元メジャーリーガーのホセ・カンセコをリングに上げたが、従来のファンが鼻白み、そこから熱が生じるはずもなかった。

 格闘技の熱はどこから生まれるのか?
 テレビは、その存在を大衆に届け人気は博せても、熱を生むことはできない。熱は、会場で生まれるのだ。なのに、会場をテレビの巨大スタジオにしてしまっては、格闘技の基盤が揺らいでしまう。テレビ局側が視聴率を気にするのは解る。しかし格闘技関係者が同じように考える必要はないだろう。気を配るべきは、ビデオリサーチが弾き出す数字などではなく、ハウスショーの充実ではないか。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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