佐世保での高知との開幕2連戦は連敗スタート。2−3、1−3といずれも接戦を落としてしまいました。打線が機能しなかった最大の要因は実戦不足。新チームになってから雨にたたられ、オープン戦が3試合しかできなかった影響が出ています。開幕シリーズではバントや走塁など細かい攻撃でのミスが目立ち、チャンスを自らつぶしてしまいました。
 今季は昨季16本塁打を放った末次峰明が愛媛に移籍し、一発長打での得点は期待できません。それだけにしっかり守り、少ない得点で勝っていく野球が求められます。「投手陣は粘り強く投げてほしい」。開幕前から谷口功一コーチを通じて、投手たちにはそう指示をしてきました。この点、開幕投手を任せた土田瑞樹、2戦目の先発・酒井大介は実戦で長いイニングを放っていないにもかかわらず、よく頑張ったと思います。

 何より土田が初戦でまずまずの投球をみせたことは彼にとっても、チームにとってもプラス材料です。立ち上がりのピンチを相手の盗塁失敗で切り抜けて以降、緩急を使って、うまく高知打線を抑えていました。ただ終盤に入って、やや球威が落ちてきたため、僕は交代を考えていました。しかし、谷口コーチから返ってきた言葉は、「本人が“最後まで投げたい”と言っています」というもの。この気持ちを僕は買って、続投を決断しました。

 おそらく昨年までの彼なら交代を打診したところで、素直に代わっていたでしょう。本人の続投志願には「今年は1年間、頑張って上を目指す」との強い意志を感じました。「風が吹いているから、一発だけには気をつけろ」。そう忠告した矢先の8回、不用意な変化球で逆転3ランを打たれてしまいましたが、本人にとって、いい勉強になったはずです。体は丈夫な男ですから、今後の登板が楽しみです。1年間、ローテーションを守り切ることができれば自ずと結果はついてくるとみています。

 もちろんNPBを目指すには、克服しなくてはならない課題はまだまだあります。たとえば、点を失った後の投球。土田の場合、逆転3ランを浴びた後、連続四球でさらにピンチを招いてしまいました。確かに一発を浴びたのは悔いの残る1球でした。しかし、それをいくら悔やんだところで失点が消えるわけではありません。だからこそ、いかに次の1点を防ぐかに全力を注ぐべきなのです。

 僕はプロ入りした当時のカープで、このことを当時の監督、コーチから徹底して叩きこまれました。入団した1986年は山本浩二さんの現役最終年。衣笠祥雄さんも打率.205と絶不調でした。助っ人外国人も不在で30本塁打を打つスラッガーも3割打者もいない。そんな中、カープは堅い守りと投手陣の踏ん張りでリーグ優勝を達成したのです。失点をなるべく少なくし、きっちりとした野球をすれば勝てる。これを1年目から経験できたことは自分にとって大きな財産になりました。

 今年の長崎もどちらかといえば、この年のカープのようなチームスタイルになると思います。もちろん、今の巨人のように戦力が豊富でバンバン打って勝てるチームができれば、監督としては一番楽です。しかし、それを独立リーグで望むのは不可能でしょう。開幕は連敗スタートになってしまいましたが、前年度の日本一チームに対して、投打がかみ合えばいけるとの手応えをつかめたことは収穫です。

 週末は今年からスタートしたジャパン・フューチャーベースボールリーグとの交流戦が組まれています。オープン戦や先日の香川との試合結果をみる限り、リーグ1年目ながらいいチームができているようです。とはいえ、我々も3年目。先輩として意地があります。勝負事ですから、結果はどうなるかわかりませんが、開幕2連戦で出た課題を修正し、しっかりした野球を関西の野球ファンにお見せしたいと考えています。
 

長冨浩志(ながどみ・ひろし)プロフィール>:長崎セインツ監督
1961年6月10日、千葉県出身。千葉日本大学第一高卒業後、国士舘大、NTT関東を経て86年、ドラフト1位で広島に入団。1年目から2ケタ勝利をあげてリーグ優勝に貢献し、新人王に輝いた。MAX150キロのストレートを武器とする本格派右腕として、その後も広島の投手陣の要として活躍。95年に日本ハムにトレード移籍し、技巧派リリーフ投手に転じた。98年にダイエー(現ソフトバンク)に移籍し、2連覇に貢献。2002年に現役引退。ダイエー、ソフトバンクコーチを経て、07年からBCリーグ・石川のコーチとして初年度のリーグ制覇を支えた。09年より長崎の監督に就任。
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