2010年３月29日、都内で『第６回東京カープ会』が開かれた。約360人のカープファンと５人のパネリストが一堂に会し、熱い議論を交わした。
　今季のカープは４年間指揮を執ったマーティ・ブラウンが去り、赤ヘル魂の継承者である野村謙二郎を監督に迎えて新たなスタートを切った。新生カープは「12年連続Ｂクラス」という長い冬の時代にピリオドを打ち、春を迎えることはできるのか。
＜協賛：萩森水産株式会社　明治製菓株式会社　株式会社すぐる　株式会社旭堂　株式会社やまだ屋　株式会社ソアラサービス　有限会社たけうち＞
二宮：　篠田（純平）は開幕第３戦で３回３失点と打たれましたが、この辺も計算は立ちにくい。
川口：　５イニングという先発ピッチャーの責任投球回数をクリアしてくれれば、何とか試合にはなる。だから、そのレベルを何とか超えてほしいですよね。

二宮：　彼は視力があまり良くないという話を聞きました。実際はどうでしょう？
小早川：　篠田を見ればわかりますけど、ピッチングするときは眼鏡をかけています。バッティングは期待されてないので打席ではしていませんが、キャッチャーのサインを見ようと思うとどうしても眼鏡がいるらしいです。「コンタクトにすればいいのに」と思うんですけど、それが合わない体質らしいです。だから、入団当初はサインが見えなくて、キャッチャーのサインと違うボールをよく投げていました。

二宮：　コントロールが悪いだけじゃなくて、見えていないと。
小早川：　でも実際の問題として、篠田は視力が悪いこと以上に視界が狭いです。もっと広く見られればピッチングの内容も変わってくるのですが、彼はマウンドに立ったらキャッチャーのミットしか見ていないですから。

川口：　なぜ僕がジャイアンツの臨時コーチを任されたかというと、例えば右バッターを教えるときに左バッターのコーチが教えてもニュアンスは伝わらない。左バッターは打ったらそこに走るという動作が入ってくるけど、右バッターはしっかり振ったあとに走ります。だから、右バッターを教えるのは右バッター出身のコーチが最適です。同じように、左バッターには左バッター、右ピッチャーには右ピッチャー、左ピッチャーには左ピッチャーが教えるべき、こういう考え方をジャイアンツが持っていたからです。
二宮：　確かに、掛布雅之さんが「打撃コーチは右バッターと左バッターの２人必要」と言っていました。右ピッチャーが投げる右バッターにぶつかりに来るシュートと、左ピッチャーに投げる左に食い込むシュートは軌道が違うと。

川口：　同じように右ピッチャーが右バッターに投げるシュートボールっていうのは、左ピッチャーには感覚的にはわからないんです。左ピッチャーは右バッターに対してクロスボールが投げられるでしょ？　どういう風にしたらクロスに入るかを、コントロールの悪いピッチャーだったので研究しました。それを僕らは左ピッチャーに教えられるわけですよ。

二宮：　左ピッチャーだと私は青木（高広）が意外にやってくれるんじゃないかと期待しているんですが……。
川口：　フッ（笑）。

二宮：　今、鼻で笑いましたね（笑）。ダメですか？
川口：　いや、ダメなことはないでしょう、ダメな方が多いかもしれないけど（苦笑）。根本的に、彼は球がそんなに速くないですよね。球威がなくても勝てるピッチャーとしては、ヤクルトの石川（雅規）がいますけど、彼はスクリューボールを持っている。メジャーリーガーでも（ジェイミー・）モイヤーがそうですね。球は遅いけどスクリューボールがあるから右バッターを抑えられる。だから、そういうボールを教えてあげたいんだけど。

二宮：　川口さん、教えてあげてください。
川口：　そうなんですよ、カープのフロントに言ってくださいよ。左ピッチャーの篠田だって、齋藤悠葵だって教えますよ。

二宮：　ヤクルトの石川は川口さんがおっしゃったスクリューに加えてシュートを覚えてよみがえりました。彼はヤクルトのOBで“王キラー”だった安田（猛）さんにシュートを教わったそうです。やはり左ピッチャーは左ピッチャーじゃないと教えられない。
川口：　もうひとつ石川には大事な要素があります。それは「ボールを見せない」ということ。最初から最後までボールを見せない位置に手を置いてあります。バッターも見づらいはずです。いきなりボールが出てくるため、バッターは一瞬慌てる。そしてそこからボールを落とす。体の仕組みとしては軸をしっかり作っておいてトップの位置を頭の後ろに持ってくれば、少しはそれができるんです。でも青木の前かがみのフォームでは難しい。前かがみになっているピッチャーはボールを投げる瞬間、体を倒します。倒すと手は早く見えるんです。小早川さん、打席ではピッチャーの手の出所って見ているでしょ？

小早川：　もちろんです。早くボールが見えればバッターは対応しやすいですからね。
二宮：　オリックスの星野（伸之）なんかは、球速はあんなに遅かったけど、最後までボールを見せませんでしたね。青木なんかはベンチから見ていてどうでしたか？

小早川：　「打たれるんちゃうか」って思った時には、カーンと打たれていましたね。
二宮：　その点では期待を裏切らない（苦笑）。
川口：　だから、特に左ピッチャーは本当にここ（心臓）が大事なんですよ。いい加減でもいいから、ど真ん中に腕を振って、最後までボールを見せないようにして投げる。球が遅いピッチャーはそれをしないと、絶対に抑えられないです。青木の場合はその部分がまだまだですね。

（Vol.５につづく）
＞＞Vol.３はこちら

小早川毅彦（こばやかわ・たけひこ）
1961年11月15日、広島県出身。PL学園高から法政大に進み、東京六大学で三冠王を獲得。84年にドラフト２位で広島に入団。１年目からクリーンアップを任され、同年のリーグ優勝に貢献。新人王を獲得した。87年には巨人・江川卓から引退を決意させる一発を打つなど印象的な活躍をみせた。97年にヤクルトへ移籍。開幕の巨人戦で３打席連続本塁打を放ち、同年、チームは日本一に輝く。99年限りで引退し、06年からはマーティ・ブラウン監督の下、打撃コーチを務めた。通算成績は1431試合、1093安打、171本塁打、624打点、打率.273。






川口和久（かわぐち・かずひさ）
1959年７月８日、鳥取県出身。鳥取城北高校から社会人野球チーム・デュプロを経て、80年広島にドラフト１位で入団。長年、左のエースとして活躍する。87、89、91年と３度の奪三振王のタイトルを獲得。94年にFA権を得て、読売ジャイアンツに移籍。96年にリーグ優勝を果たした際には胴上げ投手となった。98年シーズン終了後に現役を引退。通算成績は435試合、139勝135敗、防御率3.38。現在、解説者の傍らテレビやラジオにも出演するなど、幅広く活躍している。





〇携帯サイト「二宮清純.com」ではHPに先行して、いち早く第６回東京カープ会の内容を配信しています。ぜひ、携帯サイトも合わせてお楽しみください。
◎バックナンバーはこちらから