06年、3割1分2厘(6位)。07年、3割2分9厘(規定打席未満)。08年、3割2分1厘(3位)。
 福岡ソフトバンクのムネリンこと川宗則が首位打者を獲るのは時間の問題だと思っていた。
 しかし、昨季、まさかのスランプに陥る。2割5分9厘。いったい何があったのか。

「打つのがヘタクソなんでしょうね」
 自嘲気味につぶやき、ムネリンは続けた。
「体は絶好調だったし、気持ちも充実していた。にもかかわらず打率が低かったのはまだまだ未熟な証拠。バッティングというものは本当に水物で、うまくいかないことが多いですね」
 どこをどう変えたのか、その中身については多くを語らなかったが、「2010年型のイメージはできつつある」とキャンプでムネリンは手応えを掴んでいる様子だった。
 5月6日現在、3割7分8厘で目下、首位打者。62安打もリーグ最多でシーズン228安打ペースだ。3月31日から4月23日までは21試合連続安打も記録した。2年前、3年前のムネリンが戻ってきた。いや、さらにパワーアップしていると言えるかもしれない。

「失敗を糧にできる選手」
 ムネリンを評して、そう語ったのは四国・九州アイランドリーグ高知ファイティングドッグス監督の定岡智秋だ。定岡はムネリンがホークスに入団した時の2軍総合コーチだった。
「入団当初の川はどこにでもいる高校生のような選手。体もひょろっと細く、プロの練習についていけるかどうか最初は心配でした」
 とにかくケガをさせてはいけない。そう考えた定岡は普通の選手に対してはノックで左右に振るところを、川に対してだけは正面のゴロばかり打ち続けた。基本を身につけさせようとしたのである。
「川はなぜ成功したのか。それは基本を忠実に身につけ、一歩一歩ステップアップしていったからです。教えたことは自分の身になるまで反復練習し、モノにしました。
 どんな素質があっても、伸び悩む人間はたいてい1度教えたことを忘れ、また同じ失敗を繰り返す。しかし彼は失敗を糧にした。その学習能力の高さ、単調な基本練習をいとわない我慢強さが今の川をつくったのです」

 ムネリンが仰ぎ見るイチロー(マリナーズ)は、かつてセカンドゴロを打って、「探し求めていたタイミングと体の動きを見つけることができた」と語ったことがある。凡人には理解不可能な言葉だが、たったひとつのゴロで打撃のメカニズムのキモの部分を掴んだのだろう。
 ムネリンも何かの拍子で不調の原因を突き止め、フォームのどこかの部分を微調整したに違いない。
「(昨季は)確率の悪いスイングの軌道をしていたということですよ」
 現在は打席に入る前に、イチローに倣ってアッパースイングでの素振りを行っている。

<この原稿は2010年5月23日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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