昨年春、日本代表監督として国・地域別対抗戦WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で優勝、秋には巨人軍監督としてV3を達成した。それらが評価され、昨年12月にはIBAF(国際野球連盟)が制定する「世界最優秀監督」に選ばれた。
 昨年の野球界は原辰徳に明け、原辰徳に暮れたといっても過言ではあるまい。

 原の指揮官としての才はリーダーシップよりもフォロワーシップ(部下の力を引き出すこと)において、より強く発揮される。
 それはWBC優勝直後のシャンパンファイトで選手たちに向かい、「本当にオマエさんたちは強いサムライになった」と言ったことでも明らかだろう。
 普通の監督なら「オマエたち」となるところを、原は「オマエさんたち」と呼びかける。ちょっとしたことだが、選手たちの自尊心を大切にしたい、傷付けたくないという配慮がにじみ出ている。

 最近、ベンチで腕組みをしているシーンを見ていると、ますます“師匠”に似てきたと思う。今は亡き藤田元司だ。原は入団以来のべ7年間、藤田の下でプレーした。
 藤田から何を学んだのか。
「昔は遠征先やキャンプ地では全員がホテルの大広間で食事をしていました。普通の監督なら一緒に座って選手の表情を見ながら食べたいと考えるでしょう。
 ところが藤田さんは、奥からひとつ手前の席で壁側を向き、選手に背中を見せた状態で食事をしていました。試合で勝とうが負けようが、このポジションは一緒。監督の背中を見ていると“今日は喜んでいるぜ”とか“今日は泣いているな”とか何か伝わるものがありました。藤田さんは背中で“プロとは孤独である”と教えてくれました」

 藤田は生前、私にこう言った。
「プロは経過が大切である。しかし結果を伴うものでなければ、それは意味がない」
 若大将と呼ばれた原も、今年7月で52歳。采配に重みが備わってきた。

<この原稿は2010年5月号『家の光』に掲載されたものです>

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