真面目でなければ成功しない。しかし、真面目過ぎても成功しない。プロ野球は難しい世界である。

 埼玉西武の大物ルーキー雄星は2軍で開幕を迎えた。宮崎・南郷キャンプで渡辺久信監督に雄星のことを聞くと、「1年目は戦力と考えていません」とはっきり答えた。まずは2軍でしっかり体を鍛え、フォームづくりに専念させる方針のようだ。
 雄星について言えば、近年、これほどしっかり者のルーキーはいない。何しろ趣味は読書というのだ。あるテレビで雄星の実家の部屋が紹介されていたが、机には本がたくさん積んであり、整理整頓も行き届いていた。
 そこで雄星が発した言葉には恐れいった。「部屋の乱れはコントロールの乱れ。コントロールの乱れは心の乱れ」。大人が子どもに使う言葉である。とても18歳が口にする言葉ではない。親や野球の指導者からいい教育を受けたのだろう。

 しかし、先述したように真面目過ぎるというのも考えものだ。長いことプロ野球の世界を見てきたが、多少ヤンチャなほうが将来的には伸びることが多いように思う。同じことを元スワローズ監督の古田敦也も言っていた。
「僕が出演している番組に出てもらった時も“時間とおカネの使い方で人生変わりますから”って言っていました。確かに一言一言は彼が言っているとおりです。そういった発言がイヤミに聞こえないかわいさも彼は持っている。だけど、まずはガムシャラにやってみることも必要ではないかとアドバイスしたくもなります。プロは単にスマートなだけでは敵を倒せない。闘争心とかガツガツしたところも求められる世界ですから」

 巨人のエースとしてV9に貢献した堀内恒夫は、門限破りの常習犯で先輩の王貞治からブン殴られたこともある。現役時代は“悪太郎”と呼ばれていた。
 46歳で現役を続ける工藤公康も若い頃は試合後、よく六本木や新宿の繁華街に繰り出していた。新人類と呼ばれ、写真週刊誌に狙われたこともある。

 雄星はプロでありながら、東北福祉大の総合福祉学部通信教育部にも籍を置く。野球だけでなく勉強もしっかりやりたいということなのだろう。高校時代も学校の成績が良く、非の打ちどころのない生徒だったという。
 しかし、プロ野球は生き馬の目を抜く世界。古田が言うようにガムシャラさも必要だ。マウンドの上では“肉食系”に変身して欲しい。

<この原稿は2010年5月号『りらいあ』に掲載されたものです>

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