浜崎真二といえば日本プロ野球史上最年長勝利投手として知られている。歯に衣着せぬ言説から「球界彦左」の異名をとった。満州から引き揚げてきて阪急の選手兼総監督となったのが戦後間もない1947年。その3年後、プロ野球はセとパに分立する。
<分裂前の監督が何に苦労したかといえばカケ屋の手から選手を守ることだった>。浜崎は自著『48歳の青春』でそう述懐している。<カケ屋のほうは、どういうシステムでやっておったかというと、神戸と大阪の両方に親分の胴元がおって、それぞれ、お得意先を自転車でまわって注文を取る。一口千円で、何口でも買えるようになっておる。それで弱いほうのチームには、ハンディをつけてある>。世上をにぎわせている野球賭博の原型がここにある。さすがに「お得意先を自転車でまわって注文を取る」胴元はもういないだろうが、連絡手段が携帯電話にかわっただけで、やっていることは昔と大差ない。

 カケ屋たち、今でいう反社会的勢力との訣別を高らかにうたったものの、まるで効果がない。なぜ選手たちは不正行為に手を染めるのか。浜崎は気がついた。<選手が買収されるのは給料が安すぎるからだ>。そして、次のような行動に打って出る。<選手会を作って「待遇もよくしてもらう。おたがいカケ屋などに接触しないように監視しよう。そういうのがおったら、プロ野球は永久追放だ」というようなことを決めた>

 日本相撲協会が立ちあげた「ガバナンス(統治)の整備に関する独立委員会」の奥島孝康座長は「反社会的勢力の排除や維持員席の問題は9月場所前に(解決させたい)」と力説した。異議なし、と言いたいところだが、では具体的にどうするのか。相撲界に求められているのは対処療法ではなく根治療法である。そして、その第一歩とすべきが裏方衆の待遇改善だ。今回の野球賭博問題で力士と仲介役の元力士との連絡役を担っていたのは床山だった。聞くところによると、行司や床山らの給与は10年ほど前に3パーセント上がったのを最後に据え置かれたままだという。「とても妻子を養える給与ではない」。そんな話も耳にしたことがある。

 特別委のメンバーには法律家や企業経営者もいる。ぜひ、こうした点にも目を向けてほしい。「反社会的勢力の排除」。お題目と対処療法だけでは根本的な問題は何も解決しない。

<この原稿は10年7月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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