香川が前期優勝できた要因は最後に負けられない試合をしっかりモノにできたことでしょう。残り数試合で高知が首位をいく展開から選手たちがよく頑張ってくれました。勝ったほうが優勝という最終戦の直接対決でも先発・前川勝彦が序盤に3失点しながら、2番手の伊藤秀範が相手の流れをくいとめ、終盤の同点劇につなげました。
 伊藤に関しては、ようやく調子が戻ってきました。春先の彼は肩の不調もあり、ボールの走りが悪かったです。東京ヤクルトを解雇され、昨季はBCリーグ・新潟アルビレックスBCでプレー。本人は「肩の強さが取柄」と言っていましたが、蓄積疲労がたまっていたのでしょう。「もう、そんな歳じゃないぞ」と言って、僕が現役時代にやっていた加圧トレーニングを勧めました。

 伊藤の目標はあくまでもこのリーグで活躍することではなく、NPB復帰です。ですから、そのレベルに達していないと判断した時には容赦なく登録を抹消したこともありました。現状は140キロ近くまで球速が復活し、キレも出てきています。もう少しスピードが上がれば、再びNPBで投げるチャンスが生まれるかもしれません。

 前期は主砲の中村真崇智勝など野手のケガ人が相次ぎ、代わりに出場した甲斐弘樹(三重総合高)、舟生源太(日本大中退)ら若い選手が成長しました。後期は投手も底上げをはかる番です。7月29日からの長崎4連戦では、あえて勝ち頭の前川、高尾健太を起用せず、若手主体の投手陣で試合に臨みました。

 まず、初戦(29日)に先発した上野啓輔は8月1日にも中継ぎで登板し、この4連戦で2勝をあげました。彼は練習にもチーム1熱心に取り組んでおり、それが結果に現れています。前回ご紹介したフォーム矯正でストレートのスピードも145キロを超えてきました。後期からはクイックでもしっかり投げられるよう、更なるレベルアップをはかっています。

 佐世保の試合では「NPBのスカウトに来てほしかったな」と西田真二監督が漏らすほど、いいピッチングをみせてくれました。球場スピードガンで表示された球速はMAX140キロ台後半でしたが、実際には150キロ以上出ていたでしょう。それほどボールに勢いがありました。これからは細かい制球や牽制、フィールディングといったやるべきことをひとつひとつやっていけば、秋のドラフトで指名される可能性はかなり高まると思っています。

 また4連戦で3試合に登板した左腕の西村拓也も内容が良くなってきました。彼がここにきて一番変わったのは気持ちの部分ではないでしょうか。前期はマウンド上で泣きそうな顔をして投げており、戦う姿勢になっていませんでした。これでは思ったところにボールも行きません。

 ところが前期終了後に深沢和帆ら実績のある投手が戦力外になったことで尻に火がついたのかもしれません。技術的には監督から「顔の前でボールを切る」ことを徹底され、腕が体から離れないように投げることでコントロールも良くなってきました。前川やキム・ギョンテといった左腕のお手本がいることもプラスとなっています。7月31日の試合では3点リードの5回、1死2、3塁のピンチで登板し、後続を連続三振。今までの西村ならリリーフの役割を果たせず、ズルズルと失点していたでしょう。成長がうかがえたマウンドでした。

 8月1日には長崎から移籍した酒井大介が古巣相手に初登板しました。長崎ではエースを務め、昨年は12勝(6敗)をあげた右腕です。しかし、この日は初回、2回に計3失点。立ち上がりは「抑えなくては」と力んだ部分もあるのでしょう。ただ、その中で無意識にクセが出ていたのではないかと僕はみています。彼のセットポジションは顔の前でグラブを構えるため、その角度などで知らず知らずのうちにクセが出やすいフォームです。僕もカープに入団してすぐ、当時の北別府学コーチから「セットポジションはベルトの前でグラブを固定する」ように指導を受けました。NPBでは、こういった球種を見破る技術はとても優れています。上のレベルを目指すため、早急に改善したいと考えています。

 酒井と同様、後期からチームの登録選手になった大場浩史(広島経済大)はテンポの良さが特徴です。ストレートも130キロ台後半で、まだ伸びる余地があります。初登板となった7月19日の徳島戦ではいきなり先頭打者にソロアーチを浴び、“洗礼”を受けました。自分では「抑えられる」と思っていても、上には上がいるのがプロの世界です。怖いものなしで投げる段階から、いかに恐怖心を克服して自分のピッチングをするか。その最初の壁に直面しています。

 いくら若手の力を伸ばすといっても、やはり優勝争いに絡まなければ本当の力はつきません。僕の所属していた広島カープがそうであるように、チーム成績が悪い中ではマエケン(前田健太)以外の若い投手が低迷し、苦しんでいます。その点、香川は長崎4連戦で3勝1敗と勝ち越し、首位に立ちました。投手陣には大きな自信となったはずです。このいい流れをさらに加速させ、勝ちながら選手が力をつけていってほしいと思っています。
 

天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年、香川に入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および独立リーグ日本一に大きく貢献した。08年はプレーイングコーチとして福井に入団。23試合に登板し、0勝2敗8セーブと主に抑えとして活躍した。09年は藤田平前監督の後任として福井の指揮を執った。現役時代(NPB)の通算成績は121試合、5勝6敗、防御率4.45。
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