プロ1号から11戦8発。
 やはり、この男、ただ者ではない。
 北海道日本ハムの中田翔がプロ入り3年目でブレイクした。
 来季、開幕からスタメンに名を連ねればホームラン王争いに加わることも不可能ではあるまい。そう思わせるだけの逸材である。

 高校通算87発という金看板をブラ下げ、2008年に日本ハムに入団したが、2年間は鳴かず飛ばずだった。
 1年目は1軍での試合出場なし。2年目の昨季は22試合に出場し、打率2割7分8厘、ホームランはゼロ。
 打つ以前に守る場所がなかった。サードの守備はザル。足も速くなく外野も不安が残る。高橋信二の離脱もあってファーストで出番を得た。後は指名打者だ。
 大器は本物になるのに時間がかかる。「期待はずれ」との声がネット裏から聞こえてきたが、もし大学に進んでいたら、まだ3年生なのだ。あの王貞治だってホームランを30本台(38本)に乗せたのはプロ入り4年目である。

 中田がブレイクしたきっかけはフォームを大幅に改造したことだ。スタンスを広くし、バットをフラットの状態で振り抜く時間を長くとるようにした。
 これだと下半身の力が上半身に伝わりやすくなる。いわゆる下半身の“うねり”を生かした打ち方だ。
 中田の新打法を見て、カージナルスのアルバート・プホルスのフォームを思い出した。プホルスはナ・リーグの首位打者(03年)とホームラン王(09年)に輝いたことがあるMLBを代表する強打者だ。率も残し、飛距離も稼げるスラッガーとして恐れられている。

 このプホルスの打ち方は独特である。スタンスを広く取り、重心を後ろ足にかけ、ギリギリまでボールを呼び込む。おそらくメジャーリーグにおいて、キャッチャーミットの一番近くでボールをとらえているバッターではないか。
 引きつければ引きつけるだけボールのスピードは遅くなる。ボールの正体も明らかになる。ミスショットが少なくなるのは理の当然だ。
 しかし、この打法を可能にするには並はずれた下半身の力とスイングスピードが必要となる。背筋、スポーツでいうところのヒットマッスルが強くなければ、あれだけ速くバットを振ることはできない。

 中田はまだ発展途上の選手だ。入団した頃に比べると随分、スリムになったとはいえ、まだ贅肉が取れた程度だ。鍛えこんでつくりあげた肉体ではない。
 逆にいえば、発展途上であっても11戦で8本もスタンドに放り込めるのだから秘めたる能力は測り知れない。
 しかし、褒めたら早速スランプだ。10日の千葉ロッテ戦から7試合でわずか2安打。昔の中田に逆戻りしてしまった。
 だが、気にすることはない。まだ率を追うような時期ではない。それよりも、しっかり振りきるだけの体力と筋力を養うことだ。
“和製プホルス”が本格化するのは、まだ先だろう。

<この原稿は2010年9月6日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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