別格だからこそ捨て去りたい“言い訳”
さあ、W杯最終予選である。
今大会からアジアからの本大会出場枠が8・5に増えたことで、以前よりラクな予選になるのでは、といった声もあるようだが、個人的には、日本サッカー史上最大の経験値が得られる最終予選になるのでは、という気がしている。
というのも、今回の予選では、グループ4位のチームにまでプレーオフ進出の権利が与えられる。前回の方式であれば早々に本大会を諦めていた最下位、もしくは5位のチームにも、ひょっとすると最終戦まで可能性が残る。
前回予選のオマーン戦を挙げるまでもなく、過去、アジア予選における番狂わせの多くは、全てのチームに突破の可能性が残る序盤戦に起きていた印象があるが、今回は、最後まで予断を許さない戦いが続くだろう。勝ち抜くことがまず大前提ではあるものの、本大会での戦いを考えれば、これは決して悪いことではない。
さらに、今回は前回大会よりも“激アツ”なアウェーゲームが増える。まずは11月15日のインドネシア戦。現時点ではどこの都市での開催になるか発表されていないものの、東南アジア王者を決定する“スズキカップ”などの映像を見る限り、その熱狂度はすさまじいものがある。五輪予選で韓国を葬った自信と興奮はいまだ冷めておらず、0―0の時間帯が続くようだと、奇跡を願う情念がスタジアムを覆い尽くすことだろう。欧州生まれの選手も多く、日本にとっても全く油断はできない存在だ。
ここを乗り切ったとしても、4日後には敵地での中国戦が待っている。コロナを理由に自ら地元開催を返上した前回とは違い、相当な熱意、あるいは敵意をぶつけてくることだろう。10万人近い観衆を敵に回して戦うのは、どんなチームにとっても簡単なことではない。
対戦各国のメディアやSNSをザッピングしてみて感じるのは、どの国も、自分たちが所属するグループの絶対本命は日本だとの認識に立っている、ということ。いいか悪いかは別にして、これまでは日本を対等に近いライバルと見なしていたサウジやオーストラリアですら、「日本は別格」といった空気がある。おそらくは、これまで以上に、日本を研究し、良さを消そうとするサッカーを志向してくることが予想される。オーストラリアあたりがポゼッションでの争いを捨て、フィジカル勝負に徹してくるようだと、相当に難しい試合にもなろう。
こちらを研究してくる相手にとって、一番厄介なのは“予想外”の選手。誰かを徹底的にケアすれば、誰かのケアはおろそかになる。過去の予選でも、予選開始時点ではさほど名前のあがっていなかった選手の台頭に、わたしは期待をしてきた。
ただ、今回は少し違う。もちろん、新たなスターの登場を期待する気持ちもあるが、それ以上に、警戒されるビッグネームたちの、警戒心ごと叩きつぶすようなプレーが見たい。相手に引かれたから。警戒されたから。これまでは許されてきた苦戦のエクスキューズを、全面的に捨て去るようなサッカーが見たい。
W杯で優勝を狙うようなチームは、常に相手から警戒されている。そして、仮に敗れるようなことがあったとしても、警戒されたことを言い訳にしたりはしない。高い目標を掲げた以上、日本代表も、見守る者も、これまでとは違ったスタンスが必要になってくると思うのだ。
<この原稿は24年9月5日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>