第281回 バンタム級王国の“隠れ主役”
日本はボクシングのバンタム級王国である。主要4団体の王者は、次に示すように全て日本人選手だ。WBA井上拓真、WBC中谷潤人、IBF西田凌佑、WBO武居由樹――。
そのひとつ上のスーパーバンタム級4団体統一王者は、言わず知れたモンスター井上尚弥。
さる9月3日、尚弥の統一王座防衛戦のアンダーカードにWBO王者の武居が登場した。初防衛戦の相手は元WBCフライ級王者の比嘉大吾だ。
結論から述べれば、3対0の判定勝ちで武居が初防衛に成功したのだが、これは文字通りの死闘だった。
武居は元K-1王者という変わり種。今年5月、東京ドームでの世界初挑戦の前には、同門の尚弥にスパーリングで「ボッコボコ」にされ、猛攻にさらされても、耐えるだけの力を身に付けた。
一方の比嘉は、8割近いKO率を誇るハードヒッターながら、体重超過で王座を剥奪されるなど、自己管理の甘さがたびたび指摘されてきた。
立ち上がりから試合を優位に進めたのは武居。サウスポースタイルから切れのいいワンツーを繰り出し、接近戦では下からアッパーを突き上げた。
中間距離では不利と判断した比嘉は、ナタのような左フックを振り回して懐に飛び込み、ロープに詰めては連打を叩き込む。中盤は、疲れの見えた比嘉に対し、武居が足を使ってポイントアウトするシーンも見受けられた。東京・有明アリーナが俄然盛り上がったのが11回だ。比嘉の左フックを側頭部にもらった武居がダウン。スリップのようにも見えたが、レフェリーはカウントを8つ数えた。
だが、このダウンが武居に火をつけた。12回は猛ラッシュで比嘉をダウン寸前にまで追い込み、接戦にケリをつけた。
試合後、武居は唐突に那須川天心の名を口にし、「K-1時代からやりたかった。ボクシングでやれたらいいな」とまで踏み込んだ。天心は現在WBA、WBCバンタム級3位。主役の座を虎視眈々と狙っている。
<この原稿は『週刊大衆』2024年10月7日号に掲載された原稿です>