決勝戦に象徴されるように、今年の高校サッカー選手権は面白い大会だった。おそらく、実力的には流通経大柏が頭一つ抜けていただろうが、上位に進出したチームはどこも自分たちならではの武器、特長を持っていた。
 中でも、一歩間違えば惨敗もありえた試合をPK戦まで持ち込み、見事に流通経大柏をうっちゃった久御山の戦いぶりは見事だった。徹底してボールをつなぐやり方は、とかく“金太郎飴化”が囁かれる日本サッカー界に新たな化学反応を引き起こしてくれそうな気もする。久しぶりに、結果ではなく内容で印象を刻む高校の出現と言ってもいい。
 ただ、大会全般を見回してみて、いささか不満が残るのもまた事実である。久御山はつなぐサッカーだった。滝川二は中盤の底2枚の構成力と2トップの馬力。立正大淞南はバイタルエリアでの抜け目なさ。それぞれに特長を持ったチームの多い大会だったが、なぜか、あるタイプだけは見かけなかった。
 強さ、高さを特長とするチーム、である。

 一昔前の高校サッカーには、必ずといっていいほどこのタイプの学校があった。前線に長身のストライカーを据え、長いボールをガンガン放り込む。“進歩的”な関係者からは「時代遅れのサッカー」「あれでは世界と戦えない」と眉をひそめられながら、しかし、確実に結果は残してきた。
 ボールをつなぐサッカーは楽しいし、美しい。わたし自身、一番好きなタイプでもある。だが、すべてのチームがバルセロナになれるわけではない。バルセロナとは違った手法で、バルセロナを倒そうとするチームもある。

 先日、スペイン国王杯5回戦でバルセロナと対戦し、惜しくもアウェーゴール2倍ルールで涙をのんだアスレティック・ビルバオは、高さ、強さを前面に打ち出すサッカーで立ち向かった。中心となったのはスペイン代表の大型CFでもあるフェルナンド・ジョレンテである。精密なコンピューターにもたとえられるバルサのサッカーを、バスク人たちは重いハンマーでたたき潰そうとしたのだ。
 高校野球の世界において、身長が1メートル85を超える選手の存在は珍しいものではない。日本にも、高さと強さを兼ね備えたアスリートはいる。にもかかわらず、サッカーの場合、“体格に関係なくやれる”という言葉を曲解し、大型の選手を育てる努力を放棄してしまってはいないか。

 近い将来、ダルビッシュやマー君のような体格のストライカーが、テクニカルなチームを圧殺する……そんな試合も見てみたい。大型の選手を育てようという指導者の意識が高まってくれば、決して難しいことではない。

<この原稿は11年1月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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