日本野球では「先発に失敗した者がリリーフに回る」という考え方がまだ一般的だ。メジャーリーグでは通算601セーブのメジャー記録をもつ元ブルワーズのトレバー・ホフマンのように、最初からリリーフ一筋という例が少なくない。

 たとえば巨人において、かつてこんなことがあった。槇原寛巳、斎藤雅樹、桑田真澄の先発3本柱が幅を利かしていた頃の話だ。
 あるリリーフピッチャーが「先発とリリーフとでは年俸の格差が大き過ぎる」と契約更改の席で不満を口にした。
 担当者は何と言ったか。「悔しかったら先発の3本柱に食い込んでみろ!」。件のリリーフピッチャーは「リリーフは、たとえその日投げなくても毎日のように肩をつくらなければならない。いわばチームの縁の下の力持ち。そのあたりの苦労が全く理解されていない」と不満を口にした。

 リリーフピッチャーの中でも、ひときわ重い役割を担うのがクローザーだ。昨季のセ・リーグの優勝チーム中日には岩瀬仁紀という絶対的なクローザーがいる。パ・リーグの優勝チーム福岡ソフトバンクの抑えは馬原孝浩だ。
「名捕手あるところに覇権あり」は野村克也の口ぐせだが、これは「名リリーフあるところに覇権あり」と言い換えることも可能だ。
 しかし、この国のプロ野球において、最初からクローザー一筋という例は少ない。もちろん、そんな大切な任務をいきなりルーキーに任せるわけにはいかないので、セットアッパーからの昇格になるが、それでも先発の経験を経ずに成功した者といえば、中日の岩瀬、北海道日本ハムの武田久、巨人のMICHEAL、元近鉄の大塚晶則くらいではないか。
 ルーキーでいきなりクローザーの大役を務め、成功したのは元中日の与田剛くらいだろう。しかし、肩やヒジの故障もあり、彼が輝いた期間は短かった。

 スターターとクローザー、どちらが格上かなどと考えるのはナンセンスである。首脳陣に求められるのはどちらに適性があるかを見極めるセンスだろう。
 埼玉西武のドラフト1位ルーキー大石達也は大学時代、主にクローザーだった。身長185センチ、体重86キロの偉丈夫。昨オフのドラフトでは斎藤佑樹(北海道日本ハム)を上回る6球団が競合した。将来性を買ってのことだろう。渡辺久信監督はスターターとして育てる意向を示している。大変、結構なことだ。

 しかし、あのホップするストレートと落差の大きいフォークボールを見ると、「大魔神」と恐れられた佐々木主浩(元横浜)の若き日を彷彿させる。
 NHKの番組で「フォークを教えたいピッチャー」として、佐々木は斎藤ではなく大石の名前を挙げていた。
 そう言えば佐々木も最初は先発としてスタートし、入団2年目の途中でクローザーに転向した。初の最優秀救援投手に輝いたのは、入団3年目だ。果たして大石は大魔神と同じ道を歩むのか。それとも……。

<この原稿は2011年3月13日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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