東京ヤクルトのスカウト(東北・関東地区担当)八重樫幸雄は地震が発生した時、センバツに出場する東北高のグラウンドにいた。「もう立っていられなかった。踏ん張ろうにも踏ん張れない。練習はすぐ中止になりました。あいにく雪も降り始めた」。 母校・仙台商高の先輩の車中で2晩過ごした。「(地震発生から)2日間は携帯も全くつながらない。やっと3日目、家族と携帯メールで連絡がとれた。球団にも無事を伝えました」
 三陸沿岸の中で最も被害が大きかった南三陸町の町長・佐藤仁は仙台商時代のチームメイトだ。3年夏には甲子園にも出場した。「僕がキャッチャーでキャプテン。彼はショートを守っていた。明るいヤツで…」。一時は安否不明と報じられたが、防災庁舎の手すりにつかまり、「奇跡的に助かった」という。「しかし、まだ安心できない。志津川出身でひとり連絡がとれない同級生がいるんです。無事を祈っているんですが…」

 ロッテでプレーし、現在は仙台市内で居酒屋を営む佐々木信行は名取市内のゴルフ場で地震に遭遇した。「地面が波打っていた。まるでドラマのようだった。皆、四つん這いになって難を逃れた。立ち上がるとカート道路がボコッと盛り上がっていた。これにはビックリしました」
 居酒屋は大丈夫だったのか。「幸い、グラスが1、2個割れた程度で済みました。ただガスがまだ復旧していない。ガス漏れしているところがあり、火災の危険性があるからだと思います」

 佐々木は東北楽天ベースボールスクールのジュニアコーチでもある。子供たちを教えるのが仕事だ。他に東北放送の解説者も務めている。「球場の向こう側は海も近い。津波で多数の死傷者が出た。被災者感情とかも考慮すると来週開幕というわけにはいかないんじゃないでしょうか…」。悲痛な声で、そう語った。

 被災者感情に加え、電力不足が深刻さを増している。多量の電力を消費するナイトゲームやドームでのゲームを、この国難の時期にあえて行う大義が果たしてあるのだろうか。「国民を勇気づける」もいいが、死者3200超、行方不明者2万超(15日付毎日新聞夕刊)と報じられる状況下、いささか先走り過ぎていやしまいか。ヒーローインタビューなどできるわけがない。個人的には開幕延期やむなし、と考える。

<この原稿は11年3月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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