二宮: 田尾さんは2005年に新規参入の東北楽天で監督を務めました。成績は38勝97敗1分の最下位。初年度のチームだけにいろいろと苦労も多かったのではないでしょうか。そんな時、お酒で癒されたという思い出は?
田尾: 僕はお酒は癒しのアイテムではなく、楽しく飲むものだと思っています。だから楽天の監督時代は、かなり負けが込みましたが、お酒はお酒でおいしくいただいていました。お酒で気持ちを紛わしたことは1度もなかったですね。うちの女房が驚いていたのは、あれだけ負けが続いても家に帰って「おやすみ」と言うと、必ずスッと寝ていたと(笑)。なかなか夜に寝付けないことも本当になかったんです。僕自身、「こんなにも自分は図太い人間だったんだな」と気付いてビックリしましたよ。


 人生で最も充実していた楽天の監督時代

二宮: 逆に言えば、田尾さんのように精神的に強い人でなかったら、あの時の楽天の監督は務まらなかったでしょうね。
田尾: そう思いますね。当時の楽天はそれまで野球界に携わったことのない人たちがメインでしたから、まずは野球を好きになってもらって、この仕事を理解していただく。それも含めて自分の仕事だと考えていました。まぁ、それでも短期間ではなかなかコミュニケーションが深まりませんでした。結果がすべての世界ですから、ああいう形(解任)になってしまいましたね。

二宮: でも、チャンスがあれば、また監督をやってみたいとの思いもあるのでは?
田尾: プロ野球の世界でお世話になって、解説者時代も合わせると今年で36年目になります。その中で最も充実していたと言えるのは、あの監督時代の1年間でした。本当に1日1日がものすごく刺激的でしたよ。あの年はユニホームを着て野球をするまでの段階でやることが多くて本当に大変でした。コーチ選びから、その給料まで、ある意味フロントの仕事もやっていましたから。ユニホームを着てグラウンドにいる時がむしろ気楽に感じたくらいです。そういう貴重な経験をさせていただいたので、今度は純粋に勝負に徹する監督ができたら、おもしろいだろうなと思っています。

二宮: 田尾さんは現役時代、あとちょっとで首位打者を逃したシーズンもありました。その年よりも、充実していたと?
田尾: ええ。長崎慶一さんと首位打者を争った1982年の最終戦(対大洋)、僕は最終打席で敬遠に抗議して、2球連続で空振りをしました。現役を辞めて監督になるまでは、あのシーンが「僕のハイライトだろうな」と思っていました。でも、楽天の監督になって、ヤフードームの最終戦で選手たちから胴上げされた。あの時が自分の中では一番、最高の瞬間でしたね。

二宮: でも、まだ57歳。この先、それを超える瞬間が訪れるのでは?
田尾: あの胴上げを超えるのはなかなか難しいと思いますね。でも、若い選手を見ていると、ものすごくヤル気があって、努力もしている。だけど、残念ながらやっていることが間違っているケースも少なくない。そういう選手を見ると、やっぱり指導者になって、いいアドバイスをしてあげたい気持ちにはなりますね。実際にちょっとしたアドバイスでガラッと変わる選手もいます。選手寿命は短いですから、その中の1シーズンも無駄に過ごしてほしくない。そういう面で少しでも力になりたいなと感じています。

二宮: 1年目の悪戦苦闘があったからこそ、楽天もクライマックスシリーズに出られるようなチームに成長していった。田尾さん自身、監督をやって変わった部分は?
田尾: 選手、解説者時代は極端に言えば、自分の評価だけを気にしていました。でも監督になった時に、初めて自分中心の考え方ではなくなった気がします。選手たちや裏方さんがいい生活をしてもらうにはどうすればいいか。ファンの人たちに喜んでもらえるゲームをするには、どうすればいいか。そんな視点で考えている自分がいたんです。

二宮: そば焼酎「雲海」を飲みながら対談を進めていますが、せっかくですから「雲海 黒麹」もどうぞ。
田尾: ありがとうございます。そば焼酎「雲海」はさらっとした感じで本当に飲みやすいですね。「雲海 黒麹」はコクがあって、味に奥深さがあります。

二宮: 焼酎は銘柄や飲み方によって、さまざまな味わい方ができるところがいいですよね。
田尾: 「雲海 黒麹」は水割りにしても、味がしっかりしていておいしいです。寒い時期にはお湯割りもいいでしょうね。

 グリップは体に近づけろ

二宮: 楽天の山武司を再生させたように、田尾さんの打撃理論は多くのプロも認めるところです。逆に田尾さんが影響を受けた選手やコーチは誰ですか?
田尾: 僕は現役時代、いいバッターの1カ所に注目して見るケースが多かったんですが、王貞治さんのグリップは非常に気になっていました。王さんの一本足打法には構えてから、グッと後ろに引っ張ってきて打つイメージがありますよね。そこで王さんがフリーバッティングをする時に、ケージの後ろで、ずっとフォームを観察してみました。すると、グリップに関しては最初に構えた位置から、ちょっと上がるだけだったんです。「あぁ、王さんでもグリップは体から離れていなかった」と。それでグリップが体から離れるのはよくないと確信できました。あとは若松勉さんのタイミングの取り方も参考になりましたね。

二宮: 若松さんもグリップは体に近かった。
田尾: そうです。率が残せるバッターはみんな、体からグリップが離れない。その理由は簡単です。パンチを打つ時だって、拳が体から近いほうが目標に向かって真っすぐ出しやすい。体から拳が遠ざかるとコントロールがしにくいでしょう? バッティングも同じです。グリップが体から離れると、確実性が損なわれ、打ち損じが多くなります。

二宮: では、確実性とともに飛距離をアップさせるポイントは?
田尾: 大切なのは、体重移動と腰のひねり、曲げの3点です。この3つでバットのヘッドとミートポイントとの間で距離をつくる。距離をつくるといっても、グリップを体から離すわけではありません。あくまでもグリップは体に近い位置に置きながら、体全体で距離をとる。そうすると確実性とパワーを両立できます。

二宮: よく長距離ヒッターの中には、距離をとろうと大きくバットを引く選手もいますが……。
田尾: それでは確実性はあがりません。たとえば巨人の小笠原道大は構えた時には、ものすごくグリップが離れています。あれだけ見ると、グリップが離れたまま打っているように感じますね。でも実際にグリップの動きに注目すると、最終的にはグリップがピュッと体に近づいている。バットを振り出す段階では、グリップはものすごく近いんですよ。だからこそ、あれだけの好打率が残せるんです。最初の構えではなく、トップに入ってバットを振り出す時のグリップの位置に気を付けてほしいですね。

二宮: 残念ながら、プロでもこのポイントに気付いていない人が多いと?
田尾: だから、若い選手を見るともったいないと感じることが少なくないんですよ。そのことが分かっているか、分かっていないかで大きな差が出る。プロに入るバッターはみんな素質があるのに、形ができていないから結果が出ない。いいコーチにさえ巡り会えば、結果が残せる可能性は十分にあるんですよ。

 ボールをひきつけ、体全体で振る

二宮: ただ、プロの選手になればプライドも高い。前回の山武司(楽天)のケースもそうですが、急にフォームを変えろと言っても、なかなか変えられるものではありません。
田尾: バッティングフォームはその選手の考え方が形になったものです。ですから、頭ごなしに「変えろ」と言っても絶対に納得しない。だから僕はアドバイスするにあたって、必ずその選手の考えを聞くんですよ。「今、何に重点を置いてバッティングしているのか?」と。その上で、こちらの考えを伝える。山の場合もそうでしたが、これまでと全く違う考え方でしたから、受け入れるのには時間がかかる。お互いにコミュニケーションをとりながら、こちらの理論を理解してもらうことが大切です。

二宮: 山本人も言っていましたよ。もともとポイントが前だったので、最初は詰まるのが怖かったと。だから、ついついポイントを前にすると、“オマエ、何やっているんだ!”と叱られた、と(笑)。
田尾: ポイントを前にする打ち方は、王さんもよく言っていますね。だけど、よく見ると王さんのバッティングは決して前でボールを捉えているわけではない。実際にはボールをしっかり呼び込んで後ろで打っているんですよ。王さんは体重がホームベース方向に残ったまま、バットのヘッドが出ている。だから感覚としては前で捉えている形になる。言葉だけで勘違いしてはいけません。

二宮: 前でとらえるといっても、王さんは体が開いて前に突っ込んではいなかったですよね。
田尾: そうなんですよ。王さんは必ずピッチャー方向から見ると目の位置がボールやバットよりも後ろにあった(写真)。つまり体の軸が後ろで回転しているんです。だからバットのヘッドが走る。打てない人はバットよりも前に顔が出てしまう。ボール、バット、目。この順番が重要です。

二宮: スイングの軌道はダウンスイングがいいという人と、アッパー気味がいいという人といろいろですが、田尾さんは?
田尾: ダウンスイングは大間違いですね。ダウンスイングは腕でぶつけるような打ち方にしかならない。やはりアッパースイングにしないとヘッドスピードが出ません。これは、ある審判の方と話をしていても意見が一致しました。「田尾さん、僕はいつも後ろからバッターを見ているんですけど、一流と言われているバッターでバットが上から出る人は誰もいない。みんなアッパー気味に打っている」と。

二宮: でも、球界にはダウンスイングを信奉する指導者も少なくない。意見が合わないこともあったのでは?
田尾: 現役時代は、コーチと合わなくて、よくゲームに使ってくれないことがありましたよ(苦笑)。僕がいつも言っているのは、左バッターなら左の内もも、左手、そしてバットのヘッドを大きな面だと考えろ、ということ(写真)。この面を大きなラケットだと思ってトップをつくる。その面を崩さないように振れば、すべてが一緒の角度で動きますよね。必然的にボディもまわります。途中でアッパースイングにするとか、ダウンスイングにするとか、手首を返そうとか、細かいことは一切考えなくていい。腕は体の中でも一番器用なので、150キロのスピードボールでもプロの選手なら対応することができる。だけど腕の力だけではボールは飛びません。だから、こういった表現で体全体で打つことを意識してもらうんです。

二宮: グリップを近くに置き、ギリギリまでボールを引きつけて、体全体でスイングする。これが田尾理論の基本ということですね。本当に勉強になりました。
田尾: 野球はボールが動いている分、きっちりと打つのは難しい。要は速い球だろうが遅い球だろうが、ミートポイントを一定にして、そこへボールを呼び込めばいいわけです。自分からボールを迎えに行くのではなく、そのポイントに来たと思った時に振る。これをフリーバッティングの時から心がけてほしいですね。一流選手は表現こそ違えど、フォームの基本的な部分を見れば一緒です。僕は遠くへ確実に飛ばすというバッティングの理想を追求すれば、フォームはひとつになっていくんじゃないかと考えています。この考え方はゴルフにも応用できるかもしれませんね。僕はゴルフはヘタですけど、基本は一緒だと思います。プロゴルファーと話をしていても理論が合いますから。

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<田尾安志(たお・やすし)プロフィール>
1954年1月8日、大阪府生まれ。泉尾高を経て同志社大では、投手兼4番打者として関西六大学リーグで2度の首位打者を獲得する。1976年、中日にドラフト1位で入団。1年目に打率.277で新人王を獲得する。82年には惜しくも首位打者を逃すが打率.350の好成績で中日のリーグ優勝に貢献。この年から3年連続でリーグ最多安打を記録する。85年からは西武に移籍し、86年には日本一も経験。87年から阪神へ移り、91年限りで引退した。01年にアジア大会の日本代表コーチを務め、05年には東北楽天の初代監督に就任。現在は野球解説者、タレントとして幅広く活動している。現役時代の通算成績は打率.288、149本塁打、574打点、1560安打。ベストナイン3回。


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

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提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
中国料理 龍王
宮崎県宮崎市青島1丁目16番1号 宮崎・青島パームビーチホテル内
TEL:0985-65-1555
営業時間:
ランチ   11:00〜15:00(L.O.14:30)
ディナー 18:00〜21:30(L.O.21:00)
※季節により営業時間が異なることがあります。

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田尾安志さんの直筆サインボールを本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「田尾さんのサインボール希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、田尾安志さんと楽しんだお酒の名前は?


 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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