二宮: 俳優の仕事は地方でのロケも多いでしょう。ご当地のお酒を味わうのも楽しみのひとつなのでは?
遠藤: そうですね。実は焼酎が好きになったのも、地方ロケがきっかけなんです。寒冷地で地元の方に勧められて、いも焼酎のお湯割りをいただいたら、それが本当においしかった。感動しましたね。昔は焼酎にはクセがあるなと感じていたんですが、それ以来、いも、麦、そばと飲むようになりました。


二宮: やはり、役を演じ切った後の一杯はたまらないと?
遠藤: はい。仲間と世間話をしながら飲む時間が一番、リラックスできますね。そこで気持ちを切り替えて明日の仕事にそなえる毎日です。焼酎だと翌日まで残らないし、味がバラエティに富んでいる。そこがとても気に入っています。

二宮: 役づくりをしていると、人格まで変わる俳優さんもいると聞きます。お酒の好みが演じている役によって変わることは?
遠藤: そういうのはないですね。昔は、喫茶店でもセリフの練習をしていたくらいなのに、今は家でも女房がいるので感情を入れるのが恥ずかしくなってきちゃった(笑)。もちろん、しっかりと準備をして本番には臨みますが。

二宮: たとえば、役柄によっては、お酒の力を使うといったこともない?
遠藤: お酒を飲んで演技するなんて無理ですよ。ただ昔、大鶴義丹君と集合時間の1時間前まで飲んでいたことがあります。ベロンベロンで、どうやって芝居したか覚えていない(苦笑)。ただ、後で見たら、ちゃんと演技はできていました。まぁ、劇団時代から体調不良だろうが、何だろうが休んじゃいけないと叩きこまれてきたので、そのおかげかなと思っています。今となってはいい思い出です。あまり褒められた話ではありませんけど(笑)。

二宮: これまで時代劇から現代劇までいろんな役を演じていますが、それぞれの役は頭の中で引き出しに入れるように整理されているのでしょうか?
遠藤: 何にもないです(笑)。ただ、前に演じた時の感情を思い出すことはあります。役柄以外にも体験したことや見聞きしたことに対する感情移入は人より強いかもしれません。今回の震災でもテレビを見ていて、ごはんを食べながらボロボロ涙を流していました。冷静ではいられなくて、すぐにスイッチが入ってしまう。そういう意味では、僕は事実を冷静に伝える評論家とかレポーターには向いていないんだなと分かりました。

 ムダを省く技術

二宮: 遠藤さんには俳優のみならず、ナレーターとしても、テレビでその声をよく耳にします。私がインタビュアーを務めるBS朝日「勝負の瞬間(とき)」もそのひとつです。素晴らしいナレーションで、番組を引き立てていただいています。
遠藤: でも、基本はあまり文章を読むのは得意ではないですよ。だから、こういう仕事をしているのは不思議な気分です。「勝負の瞬間」は1時間番組でも、基本的には二宮さんのインタビューで、ナレーションもあまり多くないから正直、うれしいですね(笑)。ナレーションは、一字一句も間違えちゃいけない。ずっとナレーションが続くドキュメンタリーになると、何度も練習しないとできないので、本当に大変です。

二宮: 遠藤さんのナレーションには独特の間がある。アナウンサーとは違ったオンリーワンの味があると思います。
遠藤: それは僕自身は分からないですね。ただ、なるべく早く原稿をもらって練習したい。セリフに関しても一緒で、早く台本がほしい。やはり3回くらいは練習して現場に行きたいんですね。飛び込みで行って、すぐできるほど甘い世界ではないですから。「勝負の瞬間」はナレーションが届くのが早いし、短い中にも洗練されていて、とても読むのがおもしろいですよ。

二宮: そう言ってもらえると、スタッフも喜びます。「勝負の瞬間」で意識しているのは、極力、ムダを省くこと。ナレーションやテロップも最小限にして、視聴者にはアスリートの言葉に集中してほしいなと感じています。
遠藤: セリフもそうですね。ムダを省くという点はすごく共感できます。ナレーションも演技も、いくらムードが良くても、しゃべりすぎると余韻が消えてしまう。何も言わないほうが、観る人にとって感じるケースもある。

二宮: 文章も同じですよ。書きたいことがたくさんあると、どうしてもアレコレ詰め込みたくなります。でも余計な話を入れると、逆に読者には肝心なことが伝わらないんです。取捨選択して、いかに“捨てる勇気”を持つか。これが大事です。
遠藤: 若い頃、昼ドラをやった時に、こんなことがありました。昼ドラって基本的にはセリフの量が多いんです。みんな、それを一生懸命覚えてくるのですが、僕は何でこんなにまわりくどく、同じことをしゃべるのか疑問でした。だから、テスト撮りで監督に、「このセリフは言いたくないです」とか話をして相当嫌われましたね(笑)。今なら現場に身を任せることもできたのでしょうが、あの頃は若くてわがままでしたから、「なんだ、コイツ?」と思われていたはずです(苦笑)。

二宮: 文章で余計な説明が多いのは、自分の考えに自信がない証拠だと思います。「ここで勝負するんだ」という柱がないから、あれこれ書いてしまう。そのほうが書き手も安心するんですよね。ただ、それはあくまでも自己満足の世界に過ぎない。
遠藤: ナレーションも芝居も、力を入れ過ぎるとよくないですよ。僕も極力、力を抜きたいのですが、どうしても緊張のせいか、どこかに力が入ってしまう。でも、たまに力が抜けることがある。そういう時はいい仕事ができますね。無理やりスポーツの話に結び付けるわけじゃないんですけど、僕、アスリートの中ではヒクソン・グレイシーが好きなんです。ヒクソンが技をかけられた時にどうするかと聞かれて、「力を抜くことだ」と答えていたのを何かで知って、「へぇ〜」と感心したんです。そういう脱力を意識的にできるようになればいいなと思っています。

二宮: 同感ですね。文章でも書こうと思うと力が入って、なかなか書けない。一番いいのは筆が勝手に進む状態。ランナーが走っていて心地よさを感じるように、書いていても気分がいい。ランナーズハイならぬ“ライティングハイ”です。何十枚でもあっという間に書いてしまう。まぁ、それがいつもできるわけではありませんが。
遠藤: 力まずスムーズに演じられるのは、偶然にしか起きないですね。意識してもできない時はできない。なぜそうなったのかわからない。

 演技はキャッチボール

二宮: ちなみに「勝負の瞬間」で印象に残っているインタビューはありますか?
遠藤: どのアスリートも本当におもしろいんですが、長谷川穂積選手の回は特に良かったですね。ボクシングってただ殴り合うんじゃなくて、相手の呼吸や距離感をつかんだり、奥の深いスポーツだなと改めて感じました。

二宮: ボクシングはひとつ間違えれば、死に至る競技です。それでも相手の懐に飛び込まないと倒せない。自分のパンチが当たっても、相手のパンチは当たらない。ボクサーは、この距離感を掴むことが何より大切だと感じています。長谷川穂積は、この点が非常に優れている。だから私は“神の距離感”と呼んでいます。
 演技のことはわかりませんが、俳優に求められるものも距離感なのではないでしょうか。共演者との間合いをうまく図って、存在感を示す。そういった見えない応酬が名作を生み出している気がします。
遠藤: 個人的には演技はキャッチボールに近いかなと感じます。演じる上ではボクシングのように相手を倒しちゃダメなんです。たとえ敵役であっても、これをつぶそうとするといい作品にはならない。だから、どっちの役が演技が良かったなんてことはありえないんですよね。どのシーンでも、うまく共演者とのキャッチボールができれば、観ている方を引き込める。

二宮: 演技と文章、表現方法が違えど、共通項が多くて、とても有意義な時間を過ごせました。そば焼酎「雲海」も、まるまる1本空けてしまいましたね(笑)。最近はNHKの朝ドラにも出演されて、ますます仕事の幅が広がってきているんじゃないでしょうか。
遠藤: いやいや、まだ僕はマイナーな人間ですから(笑)。朝ドラに出て、最近は悪役以外を演じることも増えてきましたが、また泥臭いこともやってみたい。基本的にはクセのある役をやってみたいんですよ。

二宮: 先程、「脱力」がテーマに出ましたが、今、俳優として目指している方向性はありますか?
遠藤: 40代の半ばにさしかかって、自分の中で壁にぶつかったと感じた時期がありました。昼ドラの話もそうですが、昔は監督と「あぁしたい、こうしたい」とかなりディスカッションをしていました。ところが2年前、「湯けむりスナイパー」に出演した際には、自分の提案が監督にすべて却下されたんですね。監督にとっても7年間、温めた作品なので、その世界観が完全にできあがっていた。「じゃあ、もう全部任せよう」と思って演じたら、新しい自分を発見した気がしました。その時、これまで自分にとっての「やりたいこと」は、「やりやすいこと」に過ぎなかったと気付いたんです。この壁を乗り越えるには、自分とは異なる世界観を持つ人間に委ねてみることも大事だと感じました。多少、自分には違和感があってもやってみることが必要だと。

二宮: 人に自分を委ねるといっても、実践するのは簡単ではありません。裏を返せば、今の自分に自信があるから、人に任せられるとも言えるのではないでしょうか。
遠藤: いやいや。いろんな人を掛け算することで、新しい引き出しが増えることを知っただけですよ。ずっと、このスタイルで行くかどうかは分かりませんが、とにかく今は「俺をうまく料理してください」「知らない自分にさせてください」「どこかへ連れて行ってください」といった心境です。

二宮: そういう気持ちになれるのは周囲のスタッフにも恵まれているんでしょう。最後にこの先の目標を聞かせてください。
遠藤: まずは自分を高みに持ちあげてくれる人と出会う奇跡を起こしたい。そしてテレビでも映画でも何でもいいので、圧倒的におもしろい作品とめぐり合いたいですね。それが後世に残るような作品であれば、なおうれしいです。これまではおもしろくても「知る人ぞ知る」というものも多かったので(笑)。

二宮: 改めてそば焼酎「雲海」はいかがでしたか?
遠藤: すっきりとしながらも香り高く、まろやかでおいしかったですね。今度はぜひお湯割りでいただきたいです。仕事終わりにまた共演者とそば焼酎「雲海」を楽しみたいと思っています。お酒はもちろん、今回は二宮さんと味のある話ができました。また焼酎片手に、どこかで一杯やりましょう!

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<遠藤憲一(えんどう・けんいち)プロフィール>
1961年6月28日、東京都生まれ。83年にNHKドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。映画デビューは88年公開の「メロドラマ」。02年には「DISTANCE」で第16回高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞。善悪問わず、幅広い役柄を演じ分け、テレビ、映画、CMなどで活躍している。主な出演作は映画「クライマーズ・ハイ」、ドラマ「白い春」「不毛地帯」「湯けむりスナイパー」「てっぱん」など多数。また番組ナレーションやアニメの声優も務め、「勝負の瞬間(とき)」「ノンフィクションW」「世界温泉遺産」などを担当している。
>>公式サイトはこちら


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

日本初の本格そば焼酎「雲海」。時代とともに歩み続ける「雲海」は、厳選されたそばと九州山地の清冽な水で丁寧に仕込まれた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎の定番です。
提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
黒薩摩 銀座総本店
東京都中央区銀座6丁目4番17号 銀座出井本館ビル2階
TEL:03-6215-6131
営業時間:
平日 17:00〜23:30
金・祝前日 17:00〜05:00
日・祝 17:00〜23:00
ディナー 18:00〜21:30(L.O.21:00)

☆プレゼント☆
遠藤憲一さんの直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「遠藤さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、遠藤憲一さんと楽しんだお酒の名前は?


 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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