第1175回 19年W杯成功 日本はラグビー後進国ではない

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 ワールドラグビー(WR)理事会における日本協会の投票権が、従来の2票から3票に増えたのは、最上位カテゴリーのハイパフォーマンスユニオンに加わった2023年5月からだ。昨年11月に行われたWR会長選で、日本はオーストラリアのブレット・ロビンソン氏に投票したと見られる。日本の3票が効いて南半球初の会長が誕生したというのが通説だ。

 

 先日来日したロビンソン氏は会見の席で、「会長選挙で多大なる支援をいただいた。最初の訪問国が日本になるのは当然」と語った。35年男子W杯、37年女子W杯開催に向けて動いている日本にとっては心強い存在だ。加えてロビンソン氏は、「日本での19年W杯が、どれだけ成功したかをよく覚えている。開催前には懐疑的な声もあったが、今では世界中の誰もが(日本を)信頼している」とも。

 

 WRの前身の統括団体であるIRBが、いかに日本大会に対し「懐疑的」だったかについては、植民地政策を想起させるような運営スキームにはっきりと表れていた。収入の柱であるテレビ放映権、スポンサー権、ライセンス権、マーチャンダイズ権など、あらゆる権益をIRBが抑え、唯一、日本の組織委員会が受け取ることができたのはチケット収入だけだった。

 

 それでいながら68億円もの黒字を計上することができたのは、日本代表のW杯史上初となるベスト8進出が追い風となり、販売席数の99.3%にあたる約184万枚のチケットをさばくことができたからだ。当時、組織委副会長を務めていた元首相の森喜朗氏はIRBの幹部が「今までの対応は謝る。日本人のラグビーに対する愛情や前向きな姿勢を、私は見誤っていた」と大会期間中に、わざわざ謝罪したことを明かしている。

 

 IRBが組織委に突きつけた財政保証は日本円で130億円。チケットの売り上げから捻出できる額ではない。そこで組織委は文科省の協力を得てスポーツ振興くじの上がりから約36億円、さらには宝くじの収益から最大で100億円を助成してもらう計画を練り、実現にこぎ付ける。

 

 ところがIRBはこの計画にも難色を示した。「くじのカネは国から出るものではない」というのが、その理由だった。日本政府は98年にスポーツ振興投票に関する根拠法を成立させており、くじの運営主体である日本スポーツ振興センター(JSC)は文科省が所管している。カネの性質と出所を考えれば事実上の財政保証ではないか。事務方はそう言って説得したのだが、実に骨の折れる作業だったと聞く。それというのも「彼らにはアジアのラグビー後進国にW杯が運営できるのか」(森氏)という疑念が最後まで拭えなかったからである。

 

 ロビンソン氏は3日、森氏の元を訪ね、執行部への協力を要請した。「WRはもう日本を軽視することはないだろう」。森氏は、そう語っていた。

 

<この原稿は25年2月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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