こんな凄い試合を、一度でも体感してしまうと、サポーターは終生やめられない!
 6月12日(日)、J2第16節となる愛媛FC対ガイナーレ鳥取の一戦が、ホーム(ニンジニアスタジアム)にて行われた。
 前日から降り続く雨が行き場をなくし、ピッチ上に大きな水溜りをつくるというあいにくのコンディションとなった今日のニンジニアスタジアム。それまで小降りだった雨が、何かを予感させるかのように激しい雨へと変わる中、時刻は午後1時を廻り、愛媛FCのキックオフで試合がスタートした。
 立ち上がり、両サイドスペースを活かし、積極的に攻撃を仕掛ける愛媛FC。テンポも良く、序盤はうまくゲームを進めている印象だったのだが、前半20分を過ぎる頃には、大雨による不良なピッチコンディションの影響がプレーにも強く現れ始める。
 パスやクリアしたボールがイレギュラーバウンドを起こしたり、急に失速して止まったりと予測できない動きを繰り返すのだ。さらには、スリッピーなピッチが選手たちの足を引っ張り、攻守のバランスが崩れてしまっている。
 
 前半25分、そんな守備のもたつきから相手にセットプレーのチャンスを与えてしまい、その流れから先制ゴールを奪われてしまった。さらには前半31分、味方DFが足を滑らせる間に、敵選手をフリーにしてしまい、自陣深い位置まで簡単にボールを運ばれて2点目を献上した。
 
 それでも反撃に向け、ロングフィードなどを駆使して、敵陣へとボールを運ぶ愛媛FC。しかし、負の連鎖は続くのか、前半32分のFW石井謙伍選手のシュートはゴールポストに嫌われる。また、前半40分に得たPKによる得点のチャンスも逃してしまった。
 前半は、そのままスコア0−2で終了。
 
 大雨に打たれる中、2点のビハインドを背負い、本来なら気が滅入る場面かもしれない。だが、愛媛FCサポーターの闘志は、まったく衰えてはいない。
「もーてこい! もーてこい!」
“前半の悪い流れを断ち切ろう!”という気持ちで、後半開始前から大きな声と手拍子で全力の応援コールを繰り返し、選手たちに勇気を与え続ける。
 
 そんなサポーターたちのチャントに乗せた気持ちが届いたのか、後半立ち上がりから、積極的にボールへとアプローチを仕掛けるなど、闘志あふれるプレーを見せ始める愛媛イレブン。前半戦と打って変わって、グラウンダーや足元での繋ぎを減らし、ピッチの悪条件に対応するべく、ロビングのパスやフィードボール、ダイレクトプレーなどで攻撃を組み立てる。この切り替えが功を奏し、後半15分を過ぎる頃には、敵陣内でパワープレーのような愛媛による連続攻撃が生まれ始める。
 
 完全に愛媛へと流れが傾いた後半21分。相手ゴール前からの敵DFのクリアボールを、ペナルティエリア右端に陣取るDF関根永悟選手が拾い、そのままシュートを放つ。これはゴールを横切りファーサイドへと流れる。しかし、その流れたボールが敵DFの足に当たり、ペナルティエリア内で停止。次の瞬間、素早く反応し、そのボールを捉えたのはFW齋藤学選手だ。
 すかさず右足を振り抜き、シュートを放った! ボールは、敵GKの脇をすり抜け、見事ゴールイン! ついに愛媛が反撃の狼煙を上げる!
 
 後半43分、コーナーキックのチャンスを得た愛媛FC。キッカーのMF内田健太選手が、右コーナーからファーサイドに向けてセンタリングを供給。敵GKが一旦クリアするものの、DF前野貴選手がヘディングでゴール前へと折り返す。両チームの選手たちが競り合う中、ボールが右サイドへと転がる。
 そこに詰めていたのは、内田選手。こぼれ球を捉え、左足を豪快に振り抜いた! ボールは、敵DFの間をすり抜け、ゴールイン! とうとう愛媛が同点に追いついた!
 
 タイムアップが刻一刻と迫る中、同点決着も見えつつあった状況だが、愛媛の勢いは止まらなかった。 
 後半アディショナルタイム、敵陣内の右サイドで関根選手がルーズボールに追いつきキープ。同位置からペナルティエリアに向けてアーリークロスを供給する。FWジョジマール選手が敵DFを背負いつつ、ヘディングでこのボールを足元へと落とす。

 敵DFがクリアを図るが、これをミス。こぼれたボールをジョジマール選手が拾い直し、左サイドへと開く前野選手へとパスを送る。パスを受けた前野選手は、ワントラップでゴール方向へとボールを進め、すぐさま左足を鋭く振り抜いた! 弾丸シュートは、敵GKの伸ばした手の先をすり抜け、見事ゴールイン!

 ドラマチックな大逆転ゴールだ! 大歓声に包まれるスタジアム! 声を嗄らして応援を続ける愛媛サポーターが陣取るゴール裏席前へと駆け込み、右手を高々と掲げる前野選手! そこにチームメイトも駆け寄り、手荒な祝福を浴びせる!
 これが、Jリーグでの初ゴールとなった前野選手。生涯忘れることのできないゴールとなったのではないだろうか。
 
 その後、スタジアムの興奮と感動が冷めやらぬまま、時間は過ぎ去り、遂にはタイムアップ。最終スコア3−2で愛媛FCの大逆転勝利となった。
 
 今節、前半は最悪のピッチに悩まされた愛媛だったが、後半からは割り切って不良なコンディションに合わせた戦い方をしたことで、試合の流れとともに運をも引き寄せたような逆転劇であったと感じる。
 また、2点のビハインドを背負いながらも気後れすることなく、後半立ち上がりから闘志あふれるプレーを魅せてくれた選手たちのハートの強さは、本当に素晴らしかったと思う。
 
 この勝利は選手たちだけではなく、クラブやサポーター、支援者たちにも自信と勇気を与え、今後の愛媛を活気付けてくれるものだと確信している。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
 1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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