石川ミリオンスターズは昨季に続き、前期優勝することができました。最終戦での逆転優勝ということで、本当に「ラッキー」の一言に尽きると思っています。2日からは早くも後期がスタートしました。13日現在、石川は3勝2敗ですが、内容はよくなってきています。勝っているゲームでは自分たちの試合運びができていますし、負けたゲームでも投打ともに少しずつ粘りが出てきています。今季こそは、昨季惜しくもかなえられなかった完全優勝を目指したいと思います。
 さて、今季もこれまで同様に投手力でなんとかしのぎ切らなければならない試合続きました。ところが、春先から主力投手の故障が相次ぐ不運に見舞われました。その影響もあって、投手陣が打ち込まれる試合が非常に多く、それが成績にも大きく響きました。しかし、後期に入ってからは投手陣がゲームをつくれるようになってきています。それに伴って野手の守りのリズムもよくなっており、チームは今、いい状態にあると思います。

 今季は投手力に加え、打線にパワーを加えたいと思っていました。そこでカギとなるのが、やはり4番打者の敬洋(九州産大九州高−日本ウェルネススポーツ専門学校−TDK千曲川)です。現在、打率はリーグ4位の3割2分7厘。昨季30だった打点は既にリーグ5位の23打点を挙げています。どちらもチーム一の成績と、期待通りの活躍を見せてくれています。

 昨季までとの一番の違いは、調子が悪い日でも、なんとかボールに食らいついてヒットにするという姿勢です。年齢的にも27歳とチームではベテランの域に入ってきた敬洋は、今季は副キャプテンという立場からも、4番としての自覚と責任感が芽生えたことが大きく影響しているのでしょう。「周りがつくってくれたチャンスに4番の自分がなんとかしなくちゃいけない」という気持ちが、打席での姿勢にも表れているのです。性格的にムードメーカーでもあり、打線の柱である彼が活躍することで、チームは非常に盛り上がっています。

 その敬洋とともに打線を牽引してくれているのが、新人の謝敷正吾(大阪桐蔭高−明治大)です。彼は甲子園でも活躍していますから、読者の方にも馴染みのある選手でしょう。もともと長打力がウリの打者でしたが、大学では“飛ばす”ことよりも“つなぐ”ことを心掛けていたようですね。しかし、私としてはせっかくの彼の長所をいかさないのはもったいないと思ったので、「どんどん、飛ばしていいよ」と言いました。

 4月はなかなか力を発揮できなかったものの、5月に入ってからは長打が出るようになり、特に19日の新潟アルビレックスBC戦で第1号を放ってからは、自信をもってバットを振れるようになってきましたね。謝敷は決してやみくもにバットを振り回したりはしません。一見、長距離打者とは思えないほど、そのスイングには力みが感じられません。それでも彼の打球はグングン伸びていきます。その理由はしっかりと身体をつかってスイングしているからです。つまり、下半身ですね。だからこそ、それほど振り回さなくても反対方向にも大きい打球が打てるのです。謝敷の打撃センスは一級品。あとは、もう少し守備に軽快な動きが出てくれば、NPBも夢ではないでしょう。

 その謝敷の打撃を熱心に研究しているのが、同い年の佐竹由匡(清陵情報高−日本ウェルネススポーツ専門学校)です。もともと守備はよかったのですが、バッティングではなかなか思うような成績を残すことができませんでした。昨季の彼は見送ればボールという低めの変化球にどうしても手を出してしまっていたのです。しかし今季はそれが見きわめられるようになってきました。自ずとボールがバットに当たる確率も増え、昨季1割台だった打率も現在、2割4分1厘とまずまずの成績を残しています。その佐竹が意識しているのが謝敷です。振り回さなくとも大きな打球を飛ばす謝敷のバッティングを取り入れ、実際に練習ではいい打球を飛ばし始めています。試合で花開くのも、そう遠くはないのではないかと期待しています。

 前期終了後に加入したのがドミニカ出身のルーゴ(シカゴホワイトソックスDSL−シカゴカブスDSL)です。身長186センチ、体重91キロの彼はもちろん力強さの中にも柔らかさを兼ね備えたバッティングがウリです。デビュー戦でヒット1本を放ったものの、その後2試合は彼のバットからは快音は聞かれませんでした。4試合目でようやくヒットが出て、彼自身も気持ちが楽になったのでしょう。5試合目にはセンターに特大ホームランを放ってみせたのです。性格も明るく、自分が打った後にはベンチを盛り上げてくれます。

 4番の敬洋を中心に、謝敷、ルーゴと長打力が期待できる打者が3人いるのは非常に大きいですね。ここに佐竹が加われば、得点能力は格段にアップします。投手陣も「我慢して最少失点に抑えれば、打線がなんとかしてくれる」という気持ちになり、ピッチングに好影響を与えることでしょう。このようにチーム状態は非常にいい流れてきていますので、前期は14勝16敗6分と、負け越しでの優勝でしたが、後期はぜひ勝ち越しでの優勝を狙いたいと思います。


森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。10年からは金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執っている。
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