4年に1度のラグビーW杯がいよいよやってくる。第1回大会から7大会連続出場となる日本(IRBランキング13位)は、1次リーグでフランス(同4位)、ニュージーランド(同1位)、トンガ(同12位)、カナダ(同14位)と対戦する。各プール上位2カ国が決勝トーナメントへコマを進める。ジョン・カーワンヘッドコーチ率いる桜の戦士たちは今大会での「2勝」を目標に掲げている。

 2勝といっても、過去のW杯での日本の成績をみれば、それは決して容易ではないことが理解できる。何といっても過去、日本はW杯で1勝(1分け18敗)しかしていないのだ。4年前のフランス大会でも日本は初戦のオーストラリア戦に3−91と大敗し、フィジー、ウェールズに連敗。カナダと12−12と何とか引き分け、1次リーグで敗退している。W杯での勝利は91年イングランド大会でのジンバブエ戦(52−8)が最後になっている。

 カギ握る外国人選手

 だが、前回大会から4年、日本のラグビーには進化の兆しがみえる。7月に開催された環太平洋諸国によるパシフィック・ネーションズカップではW杯でも対戦するトンガ、ランキング上位のフィジーを破り、2勝1敗で初優勝。その後も遠征でイタリアと対戦し、帰国してからは米国と壮行試合を行って実戦を積んだ。21日の米国戦は一時リードを許す苦しい展開だったが、20−14と逆転勝ち。「勝って課題が見えたことは成長した証拠。数年前なら、まず負けていた」とカーワンHCは評価した。就任1年足らずで臨んだ前回のフランスW杯と比較して、「コンビネーションの部分、スタイルが構築された。ストロングや速さの部分も上がってきている」と代表のレベルアップに手応えを感じている。

 代表メンバー30名には主将の菊谷崇(トヨタ自動車)や3大会連続出場となる小野澤宏時(サントリー)、昨季のトップリーグMVP堀江翔太(パナソニック)が順当に選ばれた。カーワンHCが「お互い熟知している仲間を選ぶことを優先した」と語るように、選考にサプライズはない。チームの成熟度はこれまでになく高く、「最高の成績が残せるように頑張りたい。またそういうメンバーが揃ったと自負している」と日本代表の太田治ゼネラルマネジャーが胸を張る陣容だ。

 カギを握るのは3分の1にあたる10名を占める外国出身選手になるだろう。
「外国人を使って日本のラグビーが成長することを考えている。日本のランクを上げるには彼らの力を借りる段階にある」
 そうカーワンHCが明かすように、重要なポジションには外国出身のメンバーが並ぶ。司令塔に当たるスタンドオフには英国ノッティンガムでプレーするジェームス・アレジ、パシフィック・ネーションズカップで評価を上げたマリー・ウィリアムス(豊田自動織機)といずれも開催国ニュージーランド出身の選手が選ばれた。ラグビーでは他の競技とは異なり、「3親等以内に親族がいる」、または「本人が3年間居住」といった条件をクリアすれば、その国の代表になれる。先日、日本国籍を取得したバックスのニコラス・ライアン(サントリー)も柱になる選手だ。元日本代表で2度のW杯を経験した大畑大介氏は「ライアンは経験も豊富ですし、戦術面でも精神面でも日本を引っ張ってくれる存在ではないでしょうか」と期待を寄せる。

 小野澤の“うなぎステップ”に注目

 日本人選手で期待したいのは、日本ではただひとり3大会連続の出場となる小野澤宏時(サントリー)だ。彼の代名詞は「うなぎステップ」。ニョロッと抜け出し、キレのあるステップでボールをインゴールに運ぶ。また、タックルを受けても簡単には倒れない。今季も15トライをあげ、2年連続でトップリーグのトライ王に輝いた。

「うなぎステップ」の極意について、本人はこう語る。
「相手が飛び込んでくる。こっちの足に届くぎりぎりのところでステップを切れば、どんなに体格差があっても絶対に勝てる。基本は傾けた相手の内側の肩を狙えばいい。ラグビーはタッチラインに向かって押し出すようなディフェンスが主流。自分が相手に“オマエがタックルしろよ”というところまで行って、(相手が)タックルしようと重心を低くした瞬間、ステップを外に切る。
 相手の重心が腰に乗った瞬間ってタックルすることも飛び込むこともできないので体格差も関係なくなる。これは気持ちいいですね」

 今年で33歳になるベテランを突き動かしてきたのは、前回大会の悔しさだ。
「やはり1回は(W杯で)勝ちたいですね。フランス大会の最後のカナダ戦で引き分けた時に思いました。“これでワールドカップも最後かな?”って。あの時、29歳でした。カナダ戦で“勝ちたい”と思いつつ勝てなかったことで、逆に4年間、頑張れたという部分はある。残念ながらカナダ戦もなかなかピッチには立てませんでした(後半32分に出場)から……」
 チームリーダーとしてフィニッシャーとして小野澤に求められる役割は小さくない。
「でも、W杯といって特別なことを考えてはいけないと思うんです。いつも通り準備をして、いつも通りプレーする。結果だけを求めると、逆に良くないと思います」
 トップリーグでみせる“うなぎステップ”が南半球でも、いつも通り見られれば、カーワンジャパンの勝利も見えてくるはずだ。

 2019年W杯へつながる試合を

 目標の2勝を達成するには、どのようなプランを持って戦うべきか。カーワンHCは「フランス、ニュージーランドとは接戦に持ち込み、トンガ、カナダには勝つ」と語っている。その意味では初戦のフランス戦の出来が、以降の戦いを大きく左右することは間違いない。「接戦に持ち込むにはディフェンスが大切。そしてジャパンスタイルを全うすること。待たずに自分たちから爆発的に戦うこと。アタックでもディフェンスでもやりきることが大事」と指揮官は初戦のポイントをあげている。

 元日本代表の大畑氏は「客観的に見てニュージーランドに勝つのは難しいでしょうが、フランスには可能性がある」と断言する。
「確かにフランスは世界のトップ5に入る国ですが、試合によって出来不出来がある。春のシックスネーションズカップでは格下のイタリアに負けていますからね。だからグループリーグの初戦で、まだ相手が手探り状態の時に、日本が最高のコンディションでぶつかれれば勝機が出てくるはずです。それこそ、なでしこジャパンがドイツや米国相手にみせたように、組織で粘り強く戦うこと。地道にアタックして相手にプレッシャーをかけ続ければ、必ずほころびが出てくるはずです」
 カーワンHCは言わずと知れたオールブラッグス(ニュージーランド代表)の元スター選手。第1回大会では優勝にも貢献している。その彼が率いるだけに地元の声援も追い風にしたい。

 今大会は8年後に迫ったW杯日本開催に向けても重要な位置を占める。今回の戦いぶりが、8年後の主力になるであろうジュニアたちも含めた国内のラグビー熱に大きく影響を及ぼすからだ。活躍いかんでは新たにラグビーを始めたいと考える少年も増えることだろう。それだけに結果はともかく、フランス戦でジャパンスタイルを全うし、最強の相手とも言えるニュージーランドに挑みたいところだ。

 ニュージーランド戦といえば日本ラグビー界にとって悪夢として思い出される試合がある。95年の南アフリカ大会、17−145という歴史的惨敗を喫した。これがその後のラグビー人気の低迷に拍車をかけたと言われている。今回のニュージーランド戦は、そのトラウマを払拭する戦いにもなる。過去6大会でホスト国・地域は最低でもベスト8以上に進出している。過去、1勝止まりで1次リーグ突破すら遠い目標だった日本にとって、自国開催でのベスト8入りは、かなり高いハードルだ。

 このニュージーランドが、8年後の“トライ”へつながった――桜のジャージに身をまとった戦士たちには、後年、そう語り継がれるような奮闘を望みたい。

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【日本戦、生中継予定】 放送はすべてJ SPORTS

9月10日(土) 14:30〜 vs.フランス
9月16日(金) 16:30〜 vs.ニュージーランド
9月21日(水) 16:00〜 vs.トンガ
9月27日(火) 12:30〜 vs.カナダ

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