巻き返しを誓った後期も9勝19敗2分。監督就任以来、これほど負けが込んだのは初めての経験です。立て直しができないまま、あっという間に1年が過ぎてしまった感じがします。低迷の原因は何といっても投手陣の不調でしょう。左のエースとして期待していた吉川岳がわずか2勝(11敗1S)止まり。前期は7勝を挙げた山慎一郎が後期は3勝に終わりました。先制を許したり、大量失点する試合も多く、なかなか投打の歯車が噛み合いませんでしたね……。
 吉川に関しては最低でも2ケタ勝利は計算していただけに、この成績は大誤算です。開幕時にも紹介しましたが、彼は今季、ストレートのスピードが一段と良くなっていました。しかし、振り返ってみると、その反面、彼の持ち味であるキレやコントロールが悪くなっていたようにも感じます。特に3試合目の登板となった4月16日の徳島戦で5回6失点とKOされてしまったところから悪循環に陥りましたね。勝負どころで力任せに投げたところを打たれ、焦って、また力む……。ストレートのみならず得意のチェンジアップ、スライダーも決まらなくなり、逆に三振が奪えなくなってしまいました。吉川はストレートのスピードが上がれば、NPBも見えてくると思っていただけに、投手育成の難しさを痛感しました。

 吉川や山の代わりになる若い投手が伸び悩んだのも不振の原因です。1年目の西畑英俊、2年目の濱田兼信が故障などでチームを去り、22歳の山中智貴も一本立ちには至りませんでした。彼はスライダーが得意なのですが、今季はキレがイマイチでストレートのスピードも伸び悩みました。プロとしての体はできてきただけに、このオフはもう一度、下半身を鍛え、来季こそは先発ローテーションに入ってほしいと感じています。

 高知は韓国のプロ野球チームや西武、阪神の2軍が春季キャンプを行っているため、他チームよりも開幕前の実戦が多く組めます。早い時期での試合は選手の能力を見極める上ではプラスですが、逆に基礎的なトレーニングが不足するデメリットも抱えています。今季の投手陣の不調には春先の投げ込み、走り込み不足が影響していた気がしてなりません。新チームとして練習をスタートしてから開幕を迎えるまでの強化方針を来季はもう一度、考え直したいと思っています。

 補強についても反省点があります。昨季の貧打を踏まえ、今季の高知は野手を中心に選手を獲得しました。その中でホームラン王を獲得しそうな迫留駿や、ここにきて長打力を発揮している鈴木達史、3割近い打率をマークした曽我翔太朗など、今後が楽しみな選手が何人が出てきています。しかし、野球は最終的には投手力。今になってみれば、もう少し投手陣も頭数を増やしておくべきだったと感じています。このオフのドラフトでは何より投手に重点を置いて新戦力を見ていくつもりです。

 負けが込んだせいか、今季は投打ともに積極性に欠けていた点も気になりました。守備、走塁でもイージーミスが多かったです。2年連続でチャンピオンシップに出場していただけに、僕も含めて「今まで通りやれば勝てる」というスキがどこかにあったのでしょう。その意味では負けるべくして負けたと言っていいのかもしれません。

 残念な1年にはなってしまいましたが、その分、課題ははっきりしました。例年より長いオフをいかに有効に使うか、これが来季の成績を大きく左右します。幸い、高知には選手寮のある越知町に立派な練習環境が用意されています。10月はみやざきフェニックスリーグに行く選手を除き、しっかり練習を行う予定です。

 今季は野球の神様から「もう1度、原点に戻りなさい」とお仕置きを受けたのだと感じています。応援していただいたファンの皆さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。この悔しさを忘れることなく、来季こそは勝利の喜びを皆さんと味わいたいと強く思っています。高知のみなさん、1年間、ありがとうございました。
 

定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
◎バックナンバーはこちらから