低反発の統一球の導入により、今季のプロ野球はホームラン数が激減している。球界全体で前年比マイナス約40%。巨人に至っては前年比マイナス約53%だ。
 バットの先っぽでもフェンスオーバーする昨季までの“ホームラン・バブル”には閉口するしかなかった。しかし、いきなり前年比マイナス40%というのはNPB幹部も想定外だったのではないか。
 思い出すのは土地バブルを冷やすための「総量規制」だ。不動産価格の抑制には成功したが、深刻な景気後退を招いた。目的は正しくても、あまりドラスティックにやり過ぎると現場は混乱する。「打撃コーチをクビにするための改革ですね」。ある球団の打撃コーチはそう言って苦笑を浮かべ、小声で続けた。「おかわりにボールの飛ばし方を教わりたいですよ」
 埼玉西武の主砲・中村剛也が打ちまくっている。19日の北海道日本ハム戦ではブライアン・ウルフの高めのスライダーを軽々と西武ドームのレフトスタンドに運んだ。通算200号のメモリアルアーチは今季41本目。“飛ばないボール”もものかは、ホームランダービーを独走している。

 プロ野球におけるホームランの日本記録は55本である。王貞治(1964年)、タフィ・ローズ(2001年)、アレックス・カブレラ(02年)がレコードホルダーだ。
 では、彼らが放った55本はそのシーズンの全ホームラン数(両リーグ合計)の何%を占めていたか。つまりホームラン占有率だ。答えは以下のとおり。
 王貞治=3.8%。
 ローズ=3.1%。
 カブレラ=3.2%。
 さらに調べていて驚いた。野村克也は62年、44本塁打ながら4.3%というホームラン占有率を記録していたのだ。2リーグ分立以降、これこそは知られざるアンッチャブル・レコードだ。
 今季の中村はノムさんを軽く超えてしまいそうな勢いを持続している。19日の時点で、彼が放った41本は総本塁打数の5.1%にあたる。“飛ばないボール”の導入により分母の数が減ったことが大きいとはいえ、この数値は驚異的だ。

 これまで長距離砲と見なされていたバッターが軒並み飛距離を失うなか、彼ひとりが持ち前の放物線に磨きをかけている。いったい、 “飛ばない”ボールを何杯おかわりすれば気がすむのか。この男の辞書にどうやら「満腹」の2文字はなさそうだ。

<この原稿は11年9月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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