第1181回 性の多様性認めず スポーツ界にもトランプショック
ドナルド・トランプ米国大統領の2期目就任から4月29日(日本時間30日)で、ちょうど100日を迎えた。政権スタート直後の100日は「ハネムーン期間」と呼ばれ、支持率は概ね維持傾向にあるのが相場だが、トランプ政権は2月の調査から支持率を6ポイント(ワシントン・ポスト)も落とした。政敵を口汚くののしり、法的手続きすら無視して進める国家改造は、悪夢の「文化大革命」前夜を想起させる。
トランプ氏の時計の針を逆回転させるような大統領令の乱発は、スポーツ界にも深刻な影響を与えている。そのうちのひとつが、トランスジェンダー選手の女子競技からの締め出しである。就任直後のトランプ氏の「今後は男性と女性の2つの性別しか認めない」という演説にすぐ反応したのが米国の大学スポーツを統括する全米大学体育協会(NCAA)だ。これまでの規定を改定し、女子競技には、出生時に女性と認められた選手しか参加を許可しなくなった。これを受け、トランプ氏は「女性のスポーツを守ることができ、誇りに思う」と語ったが、力点が「女性のスポーツを守る」ことよりトランスジェンダー選手の排除に置かれていたことは明白だ。
蛇足だが、NCAAと教育部門で密接な関係にある教育庁のトップはプロレス団体WWEの元CEOのリンダ・マクマホン氏。シンポジウムで人工知能を意味する「AI」を何度も「A1(エーワン)」と言い間違え、失笑を買った。大丈夫か、この政権。
閑話休題。性の多様性を嫌うのはトランプ氏だけではない。概観するにマッチョ的な指導者に、とりわけその傾向は強いようだ。たとえばロシアのウラジーミル・プーチン大統領。ロシア上院が未成年者への同性愛などの宣伝を禁止する「同性愛宣伝禁止法」を成立させたのは、ソチ冬季五輪前年の2013年6月。これを問題視したのが米国のLGBTQの権利擁護団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)。IOCのスポンサーに書簡を送り、性的少数者への理解を求めた。だが反DEI(多様性、公平性、包摂性)の姿勢を明確に打ち出した第2次トランプ政権下でのバックラッシュにより、HRCには逆風が吹いていると言われる。
習近平政権下の中国でも、LGBTQコミュニティには、厳しい視線が注がれている。BBCによると同国最大の性的少数者のイベントは21年以来、中止されたままだという。女性への人権侵害についていえば、22年北京冬季五輪前、著名な女子テニス選手が元副首相に性的関係を強要されたと告白した後に、一時消息不明となり、世界を騒がせた。
第2次大戦以降の国際秩序が揺らぐ中、今後、五輪をはじめとするスポーツイベントは、これまで以上に大国のエゴに振り回される可能性が高い。トランプ氏が標榜する「MAGA」の最初のAは、いつでもロシアのRや中国のCに替わりえる。大国の為政者に「スポーツのSの方がカッコいいぞ」と誰か教えてやって欲しい。
<この原稿は25年4月30日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>