全米最大の人気スポーツ、NFL(アメリカン・フットボール)が今年も開幕した。「アメリカはフットボールの国」と多くのスポーツファンが真顔で語る通り、毎年この時期が来るとMLBのニュースもかき消されてしまう。文字通り、国中がフットボールの話題で染まっていくのである。
 今シーズンはどんな新たなスター、楽しみなストーリーが生まれるのだろうか。今回はNFLの2011-12シーズンから見どころを4つピックアップし、同時に今季の戦線を占っていきたい。
(写真:毎週日曜、月曜には多くのスポーツファンがNFLのゲームに釘付けになる)
【前評判の高いヴィックとイーグルスが好発進】

 今季最大の話題チームは何と言ってもフィラデルフィア・イーグルスである。
 昨季はQBマイケル・ヴィックの大活躍もあって10勝6敗でプレーオフに進んだチームが、今オフにさらに大補強を敢行。CBナムディ・アソムーハ、CBドミニク・ロジャース・クロマティ、DEジェイソン・ベイビンらの元プロボウラーを次々と獲得し、一躍リーグ最高級のパワーハウスとなった。

 今季のイーグルスに冠せられたニックネームは「ドリームチーム」。開幕前の時点で、彼らを優勝候補に挙げる識者が多いのも、まずは納得できるところである。
 そして9月11日の開幕戦でも、イーグルスは幸先良いスタートを切った。RBルショーン・マッコイ、WRデショーン・ジャクソンといった主役が期待通りに働き、敵地でセントルイス・ラムズに31−13で圧勝。QBヴィックのパス不調(32回中14回成功)をものともせず、その破壊力をまざまざと見せつけた。

 今後の鍵を握っているのは、やはりヴィックだろう。2007年に闘犬容疑で実刑判決を受けたものの、昨季の働きが認められ、開幕前に6年総額1億ドルに及ぶ新契約をゲット。「セカンドチャンスの国」と言われるアメリカらしい復活劇だが、しかしこの巨額契約ゆえに周囲からのプレッシャーも大きくなる。
 これから先に強豪と対戦していく中で、チームに揃った攻撃の武器をどれだけ活かせるか。今季は1年を通じて、ヴィックとその仲間たちの一挙一動に全米からの注目が集まり続けることはまず間違いない。
(写真:闘犬事件からの復帰直後にはヴィックの出場に反対するTシャツなども売られていたが、今では全米的な人気を取り戻している)

【マニング離脱で常勝・コルツに暗雲】

 リーグを代表するQBとして君臨してきたインディアナポリス・コルツのペイトン・マニングが、首の手術からの回復が遅れたために開幕戦を欠場。昨季まで継続してきた227試合連続出場もここでストップしてしまった。
 代わりに38歳のケリー・コリンズをQBに起用したが、初戦は地区ライバルのヒューストン・テキサンズに7−34と惨敗。過去5シーズン連続でプレーオフに進出し、07年にはスーパーボウルを制した強豪の前に暗雲が漂い始めている。

 ポイントはマニングがいつ復帰できるかだが、最低でも今後2カ月はフィールドに立つのは難しいと目される。今季絶望となっても不思議ではなく、それどころかこのまま引退の可能性まで囁かれているのだから穏やかではない。
 コルツのオフェンスはとにかくマニングが絶対の中心として構成されているだけに、離脱中は低迷が確実。これまで常勝チームの壁に阻まれて来たテキサンズに、創設10年目にしてプレーオフ進出の絶好機が到来したと言えそうだ。

 とにかく今は、NFL史上唯一シーズンMVPを4度も獲得し、そのスター性でもリーグを支えてきたマニングの順調な回復を祈りたい。もはやコルツの今季のプレーオフ争いは現実的ではないのだから、焦るべきではない。時間をかけてでもゆっくりと健康を取り戻して欲しいところだ。

【ニューヨークの盟主の座を巡る争い】

 ニューヨークでは。これまで絶えずジャイアンツがトップチームの座を堅持して来た。MLBに例えれば、ジャイアンツが街の象徴であるヤンキースで、実績でやや劣るジェッツはメッツに近いと言えば分かり易いだろうか。
 しかしそんな序列が少しずつ変化を始めている。09年にカラフルなレックス・ライアンがヘッドコーチに就任以降、着々と力をつけたジェッツは、過去2年連続でAFCタイトル戦まで進出。今季もスーパーボウル進出候補に挙げられ、エースQBのマーク・サンチェスもさまざまな形でメディアに登場するようになった。
(写真:最近は緑がチームカラーのジェッツが米メディアのトップを飾るケースが増えた)

 一方のジャイアンツは、ここ2年連続でプレーオフ逸。2007年にはスーパーボウルMVPを獲得したQBイーライ・マニングも影が薄くなり、一時は「理想の上司」と評価されたトム・コフリンHCの解任も噂されている。
 果たして今季の開幕週でも、ジャイアンツはワシントン・レッドスキンズの前に惨敗。それに対してジェッツはサンデーナイトの大舞台でダラス・カウボーイズを撃破し、改めて明暗を分けた形となった。

 ライアンHCの予告通り、来年2月、ついにジェッツがスーパーボウルまで到達すれば、ニューヨークは本当に「ジェッツの街」と呼ばれるようになるかもしれない。ジャイアンツの逆襲を予期させる要素は少ないだけに、今季がニューヨークのフットボール界のターニングポイントとなる可能性は高そうだ。

【パッカーズ、連覇はなるか】

 過去4年間でスーパーボウルを連覇したのは4チームのみ。特にNFCを連続優勝したチームは、96-97年のパッカーズ以外に生まれていない。戦力が均衡したNFLでは難しい連覇という偉業に、今季のパッカーズは挑むことになる。
 スーパーボウル制覇の直後には、決まって「栄冠の二日酔い」が取沙汰されるもの。しかしパッカーズのエースQBのアーロン・ロジャースは、「まだまだ向上したい」とハングリー精神を失っていないことを強調している。
(写真:今季が終わる頃、どのチームのファンが歓喜の声を挙げるのだろうか)

 昨季のパッカーズは、実はシーズンを通じて15人が故障者リスト入りしながら、その苦境を若手の成長で乗り切ったのだった。それだけに今季、主力選手たちの体調が戻れば、チーム力はさらにアップするという見方もある。
 9月8日の開幕戦では、ニューオリンズ・セインツと激闘を繰り広げた末に42−34で勝利。抜群の攻撃力を改めて証明してみせた。大黒柱のロジャースが今まさに旬を迎えているのも大きく、今季もカンファレンスを代表する戦力を備えていることは間違いないだろう。

 それでもNFC北地区にはシカゴ・ベアーズ、デトロイト・ライオンズ、ミネソタ・バイキングスといった侮れないチームが揃っており、もちろん油断はできない。この激戦区を勝ち抜き、パッカーズは連覇に向けて順調にプレーオフまで駒を進められるのだろうか。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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