レイソル躍進を陰で支える熊坂光希の「風林火山」

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 戦(いくさ)に勝つ術を、柏レイソル2年目のボランチ、熊坂光希は身につけている――。5月14日、日産スタジアムで行なわれた横浜F・マリノスとのアウェイマッチ。背番号27のプレーを眺めながら、ふとそんなことを思った。

 

 かの武田信玄が旗印とした「風林火山」になぞらえてみた。ちょっと強引に結びつけるところはどうかお許しあれ。

 

 伸びていくパス、風のごとし。

 

 前半9分、ハーフウェーライン手前から左ウイングバック、小屋松知哉に向けてサイドチェンジで展開を変えると、22分には後方から最前線の垣田裕暉が裏を狙うタイミングでフィードを届けている。長いキックは正確で、味方に次のアクションを促すメッセージ性もある。味方からボールを引き出すタイミング、ポジショニングも実にいい。

 

 静かにニラミを利かすこと、林のごとし。デンと動かないこと、山のごとし。

 

 ポジションとしては山田雄士とのダブルボランチだが、中央に寄って相手のトップ下、植中朝日に対応しつつ、アンデルソン・ロペスに縦パスが入らないようにコースを消す。または入るところを連係でつぶすようにしておく。極力、中央にポジションを取っておくことでチームのへそとなり、「動く、動かない」のメリハリが効いている。へそにいるからこそ、穴が生じてしまえば急いで水漏れを防ぐのも熊坂の任務だ。

 

 そしてガツンとボールを奪いに行くこと、火のごとし。

 

 熊坂の最大の魅力と言えば、ここだ。

 185㎝の長身を誇り、足のリーチも長い。この日も相手に一気に体を寄せていって、前を向かせない。長い足でボールを刈り取るプレー、局面の強さで圧倒するプレーを随所で披露している。一度襲い掛かったらそこで突破されない絶対的な安心感もさることながら、2-0とリードしてアディショナルタイムに入っても山根陸をしっかりと止めに掛かっている。最初から最後までアラートを切らさないことで味方の緊張感を持続させているのも彼の特長。リカルド・ロドリゲス監督から課せられたミッションに対して、手を抜くことはない。

 

 2位のレイソルは最下位のF・マリノスに勝利して勝ち点3を積み上げ、首位の鹿島アントラーズには勝ち点1差に迫っている。魅惑的なポゼッションスタイルを展開するチームにおいて地味な役回りであるが、熊坂の「風林火山」が実に効いている。

 

 熊坂はレイソルのアカデミー育ちだが、U-18時代に右ひざの大ケガを負ったこともあって頭角を現わしたのは東京国際大に進学してからだ。センターバックでも試され、対人に強く、泥臭いプレーを厭わないスタイルは大学で身につけたものだ。

 

 今シーズン開幕後に、彼に話を聞く機会があった。

「レイソルの育成組織でパスサッカーが自分に根づいていたなか、大学に行って180度違うサッカーに変わりました。パスをあまりつながず、フィジカルで勝負していくスタイル。でも自分に足りていない部分だったので一生懸命に取り組むことでうまく融合できているなという手応えみたいなものはありました」

 

 熊坂は4年時に関東大学1部のベストイレブンに選ばれ、チームは優勝に届かなかったものの2年連続2位と好成績を収めている。そして満を持して、レイソルに戻ってきた。1年目の昨季はケガで出遅れてしまい、リーグ戦は10試合の出場にとどまった。とはいえプロで戦うための体づくりをじっくりとやってきたからこそ、今季のブレイクにつながっている。

 

「風林火山」を成立させているのは、絶妙なポジショニングがあってこそ。試合後は必ず〝ミスターレイソル〟と呼ばれた大谷秀和コーチから映像でフィードバックを受け、プレーの振り返りを忘れないという。日々アップデートしている感がある。

 

 順調に成長していけば日本代表の候補にもなってくるだろう。夏には国内組中心で臨むE-1選手権(韓国)も控えており、メンバー入りの可能性は十分にある。

 

 レイソルの躍進に熊坂あり。「風林火山」にますます磨きが掛かっていくに違いない。

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