リバプール優勝。“クローザー”遠藤航の価値
アンフィールドが歓喜に沸いた。
4月26日(現地時間)、トッテナムをホームに迎えたリバプールは先制されながらも5点を奪う圧勝劇で5年ぶりとなるプレミア制覇を果たした。ユルゲン・クロップの後を引き継いだオランダ人指揮官アルネ・スロットのもと2位のアーセナルに勝ち点差「15」をつけての独走優勝だった。
遠藤航はこの日も終盤に出番がやってきた。後半31分に交代出場して右サイドバックに入り、すぐさま相手GKから左サイドバックのディスティニー・ウドジェにボールが渡ると激しいプレッシングで寄せる。ファウルにはなったが、4点差になって優勝ムードが高まっていくなかでチームの気を引き締める役割を担った。ひとたびピッチに足を踏み入れれば、アラートのスイッチをオンにできる存在。“クローザー”と呼ばれる男はいつものようにそのまま緊張感ある戦いをチームに持続させた。優勝が決まるとアリソン、アンドリュー・ロバートソン、フィルヒル・ファンダイクと抱き合って喜んでいた。
遠藤はクロップ体制においてはレギュラーの座をつかんだものの、スロットが監督に就任して以降、リーグ戦ではここまで先発出場が一度もない。17試合で出場時間は160分足らずと、フル出場2試合分にも届いていない状況だ。ただ、シーズン序盤は出番がない試合も少なくなく、移籍報道も飛び交った。それでも遠藤は徐々に出場を増やし、スロットからの信頼を高めていく。特に2月16日のウルヴァーハンプトン戦では19分間の出場ながらボランチに入って相手のチャンスの芽をことごとく潰し、ゴールを挙げたルイス・ディアスやモハメド・サラーを抑えてプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。
心身ともに完璧な準備ができているからこそ、いつ出番が来ても最高のパフォーマンスを発揮できるというわけだ。だがそれは簡単なことではない。控えに回る選手は出場時間がマチマチで、出ないことだってある。コンディション調整が難しく、出場できない試合が続けばモチベーションにもかかわってくる。だが遠藤はネガティブな材料に影響されることなく、自分に与えられた役割をまっとうしていく。このタフなメンタリティをスロットが大事な試合終盤において頼りにしたことは容易に想像がつく。
逆境に立たされようとも、彼はまったく動じない。日本代表の活動においてもそれを示している。昨年9月、アジア最終予選の初戦となるホームの中国代表戦がまさにそうだった。
8月17日にプレミアリーグが開幕して以降、出場したのはホーム開幕戦となったブレンドフォード戦に後半アディショナルタイムから数分出場したのみ。しかも長距離移動や時差もあり、試合まで時間もない。いくら経験豊富な日本代表のキャプテンとはいえ、コンディション面が懸念された。
こういったケースでは代表に合流すると個別対応を用意しておくが、遠藤はその必要すらなかったという。後日、森保一監督がこう明かしてくれた。
「確かに日本代表に合流するまではなかなか試合に出られていなかった。ただ、プレシーズンマッチをしっかりやれていたのは確認していましたし、リバプールが普段から強度の高い練習をやっていることは情報として持っていました。実際のコンディションを見つつ必要があれば本人と話をしながら追加でやればいいだけなので」
指揮官からすれば何の心配もいらないコンディション。出番がなくともリバプールで日々、研さんを積んでいるという何よりの証であった。
その中国戦では前半12分、久保建英がキッカーを務めた左CKからのボールをヘディングで合わせて先制点を挙げ、大量得点を呼び込む活躍ぶりだった。後半26分で途中交代したものの、続くアウェイのバーレーン代表戦では90分フル出場している。自分が置かれている状況がどうであろうが、平然と両立を果たしてしまうのが彼だ。
外から見ればたとえ向い風であっても顔色ひとつ変えることなく己が成すべきことを成す、その力強さ。遠藤航の価値をあらためて証明した優勝劇でもあった。