日本のGKレベル向上で大きな副産物「優秀ストライカー」
何年かに一度書いているのだが、GKはサッカーにおける“炭鉱のカナリア”だと信じている。
人口比でいうと10%に満たない、得点面での貢献がほとんどないGKというポジションは、世界に多くの国々でだいぶないがしろにされてきた。GKコーチという職業が認知されてきたのも、割と最近になってからのことである。
だが、見方を変えれば、GKコーチを置くようなチームが、国が、他のポジションを放っておくはずがない。きちんとした教育と訓練を受けたGKの多い国は、フィールドプレーヤーの競争力も上がっていく。フランスしかり、スペインまたしかり。GKを見ればその国の未来がわかる、と信じる所以である。
まだ日本でサッカーを映像で観るのが難しかった時代、秋葉原で欧州方式のテレビとビデオを購入し、英国「ワールドサッカー」やドイツ「キッカー」の通信販売で現地のビデオを買いあさっていたことがある。W杯の記録映画、リーグ戦のシーズン・ダイジェスト、名選手物語……中でも一番のお気に入りで、それこそすり切れるぐらい見たのが「101Great Save」という英国のビデオだった。
タイトルからお察しいただけるように、GKのグレートなセーブだけを集めたビデオなのだが、これがもう、本当に素晴らしかった。サウスウォールの超人的な反応に驚愕し、バンクスの伝説的なセーブに言葉を失った。だが、何より驚いたのは、活字ですら目にしたこともなかったようなGKであっても、とてつもないセーブをしていることだった。
Jリーグが発足したことで、日本サッカーのレベルは劇的に向上した。GKに関しても、代表クラスに限れば世界の標準レベルに達した選手も現れた。ただ、Jリーグ全体を見渡した場合、日本人GKのレベルはお世辞にも高いとは言い難かった。おそらく、Jで「101Great Save」を作ろうとしても、英国版の下位互換になってしまっていただろう。
日本にはいいGKが少ない。かといって、得点に直結しにくいポジションに大金はかけられない。困ったJのチームが目をつけたのが、サイズのある選手の多い韓国だった。ほんの数年前までは、J1全試合のうち半数以上に韓国人GKが出場していた、なんてこともあった。
先週末、J1・10試合の先発メンバーに韓国人GKは一人もいなかった。J2を含めてもゼロだった。
日本人GKが増えたのは人数だけではない。いわゆるビッグセーブ、スーパーセーブの頻度も確実に増した印象がある。代表歴のある選手はもちろん、湘南の上福元、福岡の村上や永石、鹿島の早川なども、目の覚めるようなセーブを見せている。やや別格ともいえる岡山のブローダーセンの存在を考えると、いまやJのGKレベルは世界の上位圏に突入したといえるかもしれない。
GKの全体的なレベルが向上することは、大きな副産物をも生む。好GKが多かった韓国に比べ、日本には少なかったもの――優秀なストライカーである。理由は、言うまでもあるまい。
数週間前、ユース年代のシュート感覚が変わってきている、という話を書いた。自分が気持ちいいシュートを打つのではなく、GKが困るシュートを打つ、という感覚が鮮明に感じられたからだ。一番得点に直結しにくいポジションを強化したことで、一番得点に直結したポジションが変わる。なんと含蓄に富んだ現象であることか。
<この原稿は25年5月15日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>