セ・リーグの新人王は巨人・沢村拓一で決まりだろう。
 沢村の育ての親と言えば、中大監督の高橋善正だ。東映、巨人で11年間プレーし、60勝81敗7セーブ、防御率3.34という成績を残している。71年には完全試合を達成した。

 今年1月、沢村についての印象を訊くと、高橋はこう答えた。
「珍しいくらい真面目だよ。きっちり自己管理もできる子で遊びにも行かないんだから」

 沢村は高校(佐野日大)時代は3番手ピッチャー。3年夏には外野を守っていた。
「セレクションを受けた時の印象も、体が大きいとか、クセのない投げ方をしているとか、そんなもんですよ。
 大学に入ってからも2年までは全く大したことなかった。ボールの威力は多少あったけど、要するに速い球を、ただ“ぶん投げている”だけ。変化球ではほとんどストライクが入らなかった。

 成長の兆しが見られたのは3年秋かな。変化球でストライクが取れないから真っすぐに頼る。それを狙い打たれる。
 オレに怒られっ放しだったものだから、変化球の精度の重要性に気がついたんだろうね。カーブ、スライダー、そしてフォークボールもよくなってきましたよ」

 人との出会いは大切だ。もし沢村が高橋と出会っていなかったら、プロで活躍するほどのピッチャーには育っていなかったのではないか。

 近年、大学球界ではプロOBの監督が増えている。今年の大学野球選手権準決勝は巨人などでコーチを務めた江藤省三率いる慶大と、広島を3度日本一に導いた古葉竹識が指揮を執る東京国際大の対決となった。
 大学時代からレベルの高い指導を受けられるとなれば「慌ててプロに行く必要はない」と考える高校生がこの先、増えてくることだろう。

「急がば回れ」である。

<この原稿は2011年10月31日号『週刊大衆』に掲載されたものを再構成したものです>

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