バンタム級・中谷潤人、初の統一戦でKO勝ち「もうすぐ行くので待っててください」と井上尚弥にメッセージ 〜ボクシング世界戦〜

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 8日、ボクシングの世界戦が東京・有明コロシアムで行われた。WBC&IBF世界バンタム級王座統一戦はWBC王者の中谷潤人(M.T)がIBF王者の西田凌佑(六島)を6ラウンド終了TKO勝ちで、王座統一に成功した。バンタム級10回戦に臨んだWBOアジアパシフィック同級前王者の那須川天心(帝拳)がビクトル・サンティリャン(ドミニカ共和国)に判定勝ちした。WBOアジアパシフィック同級王者決定戦で同2位の坪井智也(帝拳)が同1位のバン・タオ・トラン(ベトナム)を判定で破り、プロ2戦目でベルトを奪取。そのほか日本バンタム級王者の増田陸(帝拳)が世界ランカー相手に1ラウンド1分27秒KO勝ちを収めた。

 

 リングサイドには元世界バンタム級4団体統一王者で、世界スーパーバンタム級統一王者井上尚弥(大橋)、WBA世界バンタム級休養王者堤聖也(角海老宝石)、WBO世界同級王者武居由樹(大橋)ら現役王者が顔を揃えていた。このことからも、注目度の高さが窺えるビッグマッチだ。緑の王者・中谷と赤の王者・西田。無敗の王者がリング上で拳を交えた。

 
 開始のゴングとともに距離を詰め、連打繰り出したのは中谷だった。「西田選手は距離感が優れている。1ラウンド目から、それを狂わせてやろうと思った」。右のアッパーを的確に当て、左を振り回す。「ダメージを与えるのが目的」と、息をも付かせぬ連打で相手にリズムを掴ませない。
 
 西田も距離を詰め、インファイトに応じる。3ラウンド目に西田のパンチが当たると観客が大いに沸いた。中谷をロープ際に追い込む場面も。「手数を意識していると感じた」と中谷。4ラウンドが始まると肩を回して向かう西田。観客は大きな歓声で2人を迎えたが、中谷はここに異変を感じ取っていた。「腕を打ったりそこが蓄積してペースがとれていた。ダメージも感じていた。非情だが、勝つためにその腕を狙いにいった」
 
 4ラウンド目、拍手で迎えた観客に応えるように西田は前に出る。途中、「西田コール」が有明コロシアムに鳴り響いた。西田攻撃がヒットすると、さらに観客が沸いた。5ラウンド目途中には偶然のバッティングから西田の右目付近が腫れ、レフリーがドクターチェックを指示した。
 
 そして結末は7ラウンドを迎える前に訪れた。セコンドアウトを報せる笛が鳴っても西田は椅子から立ち上がらない。レフリーは両手を交錯し、試合終了を告げた。場内に流れたアナウンスによれば、右肩脱臼による棄権。試合後、西田は病院に直行した。両拳を掲げて勝利を喜んだ中谷。「フライ級チャンピオンの頃から統一戦をしたいと思っていた。日本人に馴染みのある階級で統一、自信になりました」
 
 リング上で対戦が期待さられる井上尚弥へのメッセージを求められると、「もうすぐ行くので待っててください」とアピールした。試合後の会見でファン待望の井上尚弥戦について「期待感が大きくなっているのを感じている」と語った。井上尚弥はこの秋、防衛戦を控えている。果たして、日本人王者によるメガマッチは実現するのか。
 
 WBAは堤が目の手術を受けた影響で休養王者となったため、正規王者はアントニオ・バルガス(アメリカ)が就いたが、国内のバンタム級戦線は激化の一途を辿っている。中谷、堤、武居の世界王者以外にもタレント豊富だ。特に注目度という点では既に世界王者クラスなのが那須川。プロデビューは興行パンフレットの“センター”を世界チャンピオンを差し置いて陣取り、試合前の記者会見も世界戦カードの選手たちと共に登壇した。試合順もダブル世界戦の間に那須川の試合を配置することもあった
 
 それだけ耳目を集める男、那須川の課題と言われているのが「仕留め切ること」、KO率の低さだ。試合前の時点で6戦全勝2KO。KO率は33.3%である。派手に暴れ回っていた印象のあるキックボクシング時代に引っ張られていることもあるだろうが、どこか物足りなく感じてしまうのは期待値の高さゆえとも言える。この日も相手をスピードで圧倒しながら倒すことができなかった。3-0の判定勝ちにも那須川は「もっと鮮やかに勝って、倒しもしたかった。もっと幅を見せたかった」と振り返った。
 
 その那須川が返上したWBOアジアパシフィックのベルトを掴んだのが、21年の世界選手権バンタム級金メダリストの坪井だ。鋭いコンビネーションを繰り出し、会場を沸かせたが、ダウンを奪えず「決め手が僕になさ過ぎた」と反省した。判定はジャッジ2人がフルマーク(100-90)。残り1人も98-92で坪井を支持した。デビュー2戦目で掴んだベルト。ただ坪井は「スーパーフライ級で世界狙いたい」と意向を示しており、バンタム級戦線に今すぐ名乗りを上げることはなさそうだ。
 
 バンタム級には“世界の左”の継承者と言われる男もいる。WBC世界バンタム級で12度王座を防衛した山中慎介と同じ、帝拳ジム所属で大和心トレーナーの指導を仰ぐ増田だ。この日は左ストレート一発で、 WBA世界同級11位ミシェル・バンケス(ベネズエラ)をKOで下した。中谷、武居、堤の世界チャンピオンに加え、那須川、増田、さらには井上拓真(大橋)、比嘉大吾(志成)ら元世界王者も絡んでくることになろう。群雄割拠の戦国時代、真っただ中である。
 
 
(文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)
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