羽生結弦&MIKIKO、修正点に垣間見る妥協なき姿勢

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 SNSを見ていると、「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd “Echoes of Life” TOUR」の解説やインタビューが掲載されている「THE BOOK『Echoes of Life』」が多くの人々の手元に届いたことが確認できた。

 

 同ツアーはこの2月に幕を閉じた。それにも関わらず、いまだに余韻からさめきれない者も多かろう。ストーリーのインパクトが大きかった証左である。

 

 もはや説明不要の感もあるが、羽生結弦が書き下ろしたストーリー「Echoes of Life」について少々の説明をしよう。Echoesは戦争や命などをテーマに、羽生独自の感性が生かされたSF調のストーリーだ。羽生は荒れ果てた地で、ひとりぼっちとなってしまったNovaという主人公を演じた。主人公が「命とは?」「役割とは?」などと疑問を抱くと、目の前に白い“問いの扉”が現れる。そこをくぐると案内人なる物語のマスターが居て、Novaにヒントやきっかけを与え、ストーリーが進行する。

 

 このEchoes of Lifeツアーは2024年12月、埼玉で始まり、広島、千葉とまわった。総指揮者でもある羽生と演出家のMIKIKOは、回を重ねるごとに演出に修正を加えていた。

 

 1つ、例をあげよう。30分の整氷が終わり、羽生(Nova)がプログラム曲「アクアの旅路(Piano Solo Ver.)」を滑る前までのワンシーン。

 

 埼玉公演初日(昨年12月7日)、羽生演じるNovaは、白い“問いの扉”をただ見つめていた。しかし、千葉公演千秋楽では、扉のふちにもたれ、頭を抱え悩みながら扉をくぐらなかったのだ。くぐらないことは埼玉でも千葉でも同じだが、“苦しみながらも自分で答えを見つけようとしているのか?”と私の想像を掻き立てた。

 

 これらの修正は些細なものかもしれない。しかし、このわずかな違いで解像度がグッと上がり、主人公が苦しんでいる様子、ひいては自分で成長しようとするイメージがより鮮明になった。そこの生々しさが、Novaと羽生の魅力なのかもしれない。付言するなら、些細な修正や些細な変更で印象を変化させるのが芸術の妙あり、怖いところでもあるのだ。

 

アイスストーリーは「唯一無二」

 

 私が気付いていないだけで、他にもたくさんの修正箇所、仕掛けがあるのだろう。これらを映像で比較して見るのも面白い。友人と「あの箇所、埼玉公演と広島公演で、演出がかわっていた」などと語り合うのも、芸術の楽しみ方の1つだ。

 

 同じ演技、同じ演出を繰り返すのではなく、一幕ごとに演出家のMIKIKOと改善、修正を加えたことが想像できる。

 

 アンコールでの羽生のコメントがふるっていた。

「Echoesをご覧になってくださる方がいるからこそ、みんなで力を合わせて“我が子”のように創ることができました」

 

 羽生は、千秋楽後の囲み会見で「とにかく頑張った」と自らをねぎらい、続けた。

「これ以上ない出来で締めることができたので、放心状態です(笑)。アイスストーリーは言葉や文字だけでは表現しきれないし、スケートだけでも表現しきれない唯一無二のものだと思っています。今日の演技、演出、物語が映像に残ったり、観に来てくださった記憶に残ったりしてくれたら、本当に嬉しい」

 

 羽生のアイスストーリーは、唯一無二の芸術と言っても過言ではない。テレビクルーによる「次の構想は?」の問いにはかぶせ気味で「ないです。ゼロです」と返していた。彼の感性が刺激され、新たな構想が練り上がる時を、待とうではないか。Echoesを噛みしめながら――。

 

(文/大木雄貴)

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