巨大な風車に突進するドン・キホーテと言えば清武英利氏は気を悪くするだろうか。その言動、行動の無謀、無粋については、ここでは敢えて問わない。重要なのは「清武の乱」が今後のプロ野球に何をもたらせるのか、その一点である。
 メジャーリーグの球団においてGMは基本的に監督、コーチ、選手の人事権ならびに関連予算の編成・執行権を握る。GMが一度決めた人事をオーナーが“ちゃぶ台返し”をすることは原則としてはありえない。その意味では清武氏の主張は筋が通っている。

 だが球団会長であり、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡邉恒雄氏は「(コーチ人事を)彼に、オレは許可したことはない」と語っている。GMの座は原則として権限と責任が明確にされることで担保される。しかし、これでは“名ばかりGM”ではないか。

 これに対し清武氏は「読売巨人軍職制」や「読売巨人軍組織規定」を持ち出し、<読売新聞グループ本社代表取締役会長らにはこれらの権限が一切ない>と断じている。この主張については異論もあるだろう。議論の土俵がひとつできた。

 球団運営の根幹をなすGM制度の不備、未熟さはプロ野球に限った話ではない。中には親会社の伝書鳩のようなGMもいなくはない。だからこそ清武氏は語るべきなのだ。真のGM制度の確立には何が必要かを。その延長線上に「文化的公共財」である球団の親会社からの自立がある。「謀反」の理由は少々、理解できた。だが世間まで巻き込んだ大義はまだ見えてこない。

<この原稿は11年11月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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