ラグビー日本代表ヘッドコーチに来年4月に就任するサントリーサンゴリアスGM兼監督、エディー・ジョーンズの口からヤンキースの守護神マリアーノ・リベラの名前が飛び出したのには驚いた。博識とは聞いていたがMLBにも造詣が深いとは……。
 リベラと言えばMLBを代表するクローザー。通算603セーブはMLB史上最多である。41歳で迎えた今季も44セーブをマークし、健在ぶりをアピールした。
 IRBがこれまで6人だった交代要員を7人まで認めるルール変更を行ったのは98年のシーズンからだ。それに伴い、指揮官の選手起用の重要性はさらに増した。いつ、どこで、どんなタイミングでカードを切るか。昨季、サンゴリアスを日本選手権優勝に導いたエディーは次のようにゲームプランを考えた。

「(試合時間の)80分間を60分と20分に分けました。最初の60分間は走り切れる選手。最も大切なのはフィットネスです。そして最後の20分間は元気のある選手、あるいは経験のある選手。要するにゲームをコントロールできる選手。ウチには“37歳のゲーム・フィニッシャー”がいました」。言うまでもなく元豪州代表SHジョージ・グレーガンのことだ。「彼に託したのは41歳のヤンキースのクローザーの役割だったんです」

 リベラに続いて飛び出した名前はFCバルセロナのMFシャビ・エルナンデス。スペイン代表として南アフリカW杯の優勝に貢献したことは記憶に新しい。「昨季のチャンピオンズリーグ決勝でシャビが何回パスしたか、ご存知でしょうか。148回です。そのうち141回が完璧でした。しかも彼は1試合平均約12キロ走っています。ではウチのSH日和佐篤の昨季のある試合でのパスの回数は? 124回です。そのうち121回成功しました。私たち(サンゴリアス)が目指しているのはラグビー界のバルセロナなんです」

 代表の指揮を執るのは母国・豪州に次いで2度目だ。03年のW杯準優勝には苦い記憶が残る。「母国を優勝に導けなかったことで僕たち家族は家を引っ越さなければならなかった。庭にゴミを投げ入れられたり、大変な目に遭ったんです」。今回、日本人の宏子夫人はヘッドコーチ就任に反対しなかったのか?「彼女は僕よりも数段タフな人間です」。ジョーンズ家のクローザーか? そう水を向けると、親日家の知将はクスッと笑った。

<この原稿は11年12月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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