第1189回 “公立王国”佐賀球児はなぜ強い?

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 「高校野球の7不思議」のひとつと私は考えている。なぜ佐賀の公立(県立)高は夏の甲子園に強いのか―。

 

 高校野球は随分前から“私高公低”が続いている。2000年代に入ってから、夏の甲子園を制した公立校は07年の佐賀北の1校だけ。1990年代でも、公立校の優勝となると、94年の佐賀商、96年の松山商(愛媛)の2校しかない。

 

 佐賀北、佐賀商と佐賀県勢の健闘が光る。高校野球関係者の中には「『葉隠』の伝統が生きているのではないか」と時代がかったことをいう者もいるが、精神論だけで勝てるほど甲子園は甘くない。ここ10年の春夏甲子園出場校を見ても、有田工が3回、佐賀北が2回、鳥栖工が1回、佐賀商が1回、伊万里が1回、唐津商が1回。私立は早稲田佐賀と東明館の1回ずつ。佐賀は全国的にも稀に見る“公立王国”である。

 

 結果には必ず原因がある。そこで国スポなどを通じて旧知の日野稔邦さんに話を聞いた。日野さんは佐賀県が進めるSSP(佐賀スポーツピラミッド)構想の責任者だ。

 

 返ってきた答えを要約するとこうなる。

 ①県教育委員会に働きかけ、県立高校への野球推薦枠を大幅に拡大し、県内の中学生の進学を容易にした。日野さんによると、従来は1校あたり2名程度だった推薦枠を6名程度に拡大したという。

 

 ②県内の中学校硬式野球クラブ(部活とは別)による県大会(知事杯)の創設。これにより県内の中学生の硬式野球熱が高まるとともに「硬式野球を続けるなら、県内の高校で」という気運の醸成が図られた。

 

 ③佐賀大学教育学部との連携。日野さんによると、スポーツ科学に知見を持つ同大の専門家が県内の中学や高校を回り、投手を中心に動作解析を行う。その結果、受講者のパフォーマンスが向上し、故障リスクが低減した。

 

 ④過疎地区の学校を支援するための寮建設や運営費の一部補助。少子化と過疎化により、人口減少地区の学校は厳しい運営を強いられている。それはスポーツを取り巻く環境にも深刻な影響を及ぼす。格差是正のための県の支援は、野球部員にとっても心強いはずだ。

 

 さてプロ野球に目を転じると、佐賀からは3人の優勝監督が出ている。権藤博さん(98年横浜)、緒方孝市さん(16~18年広島)、辻発彦さん(18~19年埼玉西武)。権藤さんと緒方さんは鳥栖、辻さんは佐賀東。3人とも公立校の出身だ。

 

 野球に限らず、佐賀が県内の中学・高校スポーツの競技力向上に力を入れる背景には「中学から高校に進学するに際し、有望な生徒が県外の私学に流出することへの危機感がある」と日野さん。6年ぶりに甲子園に戻ってきた佐賀北のメンバーは、20人中19人が県内の中学出身者。ハンドメイドのチームに“がばい旋風2.0”の期待がかかる。

 

<この原稿は25年8月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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