第1189回 甲子園経験校と対戦か 青鳥特支“実りの秋”

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 主将の式守優太は浮かない顔をしていた。「どうしたんだ?」と監督の久保田浩司。「あんなクジ引いたので監督に怒られるかと思って…」

 

 久保田は式守の顔をのぞき込み、励ますように言った。「何言ってるんだよ。いいとこ引いたじゃないか。どうせやるなら強い相手の方がいい。これは注目されるぞ」。ポンと肩を叩くと、16歳の表情が見る間に明るくなった。

 

 視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱の子どもを対象とした特別支援学校は、全国におよそ1100校ある。その中で高野連に加盟し、単独チームとして公式戦に出場しているのは東京都立青鳥特別支援学校だけだ。

 

 その青鳥特支が今月13日から始まる秋季東京都大会の一次予選で、春夏13回の甲子園出場を誇る二松学舎大付と対戦する可能性が高まってきた。同大会はブロック制で行なわれ、抽選の結果、青鳥特支の初戦の相手は二松学舎大付と東京農の勝者。仮に二松学舎との対戦が実現すれば、「特別支援学校が単独で甲子園出場経験校と戦う初めての公式戦」(久保田)となる。

 

 

 監督の久保田は日体大卒業後の88年に都立の養護学校に採用され、当初はソフトボール部の指導にあたっていた。ある日のことだ。ダウン症の生徒が「キャッチボールを教えてください」と久保田の元を訪ねてきた。ボールの握り方や腕の振り方を教えると、めきめきと上達していった。「その子がピョンピョン跳びはねて喜ぶ姿を見た時、私の心にスイッチが入ったんです。彼らに野球をやらせたい」

 

 21年に青鳥特支に転任した久保田は23年、同校にベースボール部を創設した。24年夏には、単独チームとして西東京大会に臨んだ。都立東村山西と対戦し、歴史的大敗(0対66で5回コールド)を喫したが、最後まで懸命に戦う彼らの姿は大きな反響を呼んだ。

 

 久保田は言う。「この試合を見て“青鳥で野球がやりたい”と言って入ってきたのが今のウチの主力。野球経験者も3人いました」

 

 今夏の西東京大会は初戦で上水に1対22(5回コールド)で敗れたものの失点は前年の3分の1にまで減った。4回には待望の夏初得点が生まれた。「最近は実戦に近い練習ができるようになってきた。試合ではダブルプレーもとれる、バントや盗塁のサインも出します。ただしスクイズはまだ。なにしろ三塁に行くことが滅多にありませんから」。久保田は掴みつつある手応えを苦笑いにくるんで言った。

 

 そして続けた。「二松学舎とやれるかもしれない。その思いが彼らのモチベーションを高めています。“オレ、ヒットでも打ったらヤバくないですか”とか。中には“100点取られても全力でやるぞ”とうれしいことを言う子も。本当にいいクジを引いてくれました」。青い小鳥たちの成長が楽しみな“実りの秋”である。

 

<この原稿は25年9月3日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

 

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