地区チャンピオンシップで群馬ダイヤモンドペガサスを下し、球団創設以来、初めてリーグチャンピオンシップに進出した昨シーズンは、新潟アルビレックスBCにとって飛躍の年となりました。しかし、そのリーグチャンピオンシップでは石川ミリオンスターズに敗れました。レギュラーシーズンの終盤からあった勢いでリーグの頂点に立ちたかったのですが、最後に詰めの甘さが出てしまいました。それだけに達成感や満足感ではなく、悔しさの残るシーズンでもありました。
 とはいえ、昨シーズンのアルビレックスは確実に変わりました。それは橋上秀樹前監督(現・巨人コーチ)の影響が大きかったことは言うまでもありません。橋上さんが口を酸っぱくして選手たちに言っていたのは、「考える野球」でした。例えば打席に立つ前に、この場面ではどういうバッティングをすればいいのか、どうすれば得点の可能性が高くなるのかを考えるのです。そこで大事なのが、自分の役割を認識し、身の丈に合った打撃をすること。これまでは長距離打者でもないのに、大振りする選手が多かったのですが、そのことを理解した昨シーズンはチームバッティングをする選手が多かったのです。それがチームの最大の悩みだった得点力不足の解消につながりました。

 さて、これまで4年間、プレーイングコーチとしてやってきましたが、今シーズンは専任コーチとして選手の指導にあたることになりました。僕が指導者として心がけているのは、成功も失敗も、その要因を選手と一緒に追求すること。というのも、僕自身、選手としてたくさんの指導者にアドバイスを受けてきましたが、どんなアドバイスにしろ、自分の心の中に引っ掛かるものがあると、吸収されないのです。ですから、選手と一緒にしっかりと要因を探り、会話を交わす中で選手を納得させることが重要だと思っています。

 一方、橋上さんの下で1年間やった中で教わったのは、指導者たるものは迷ってはいけないということです。「指導する者が迷っていては、選手にいい影響は与えることはできない。ドンと構えて、選手の道しるべにならなければいけない」というわけです。思い起こせば、昨シーズン、ランナーが三塁にいる場面でエンドランをしかけ、それが決勝点になって勝った試合がいくつかありました。普通、三塁にランナーがいる場面でエンドランというサインはなかなか出しづらいものです。バッターが空振りすれば、せっかくの三塁ランナーがムダ死にするからです。しかし、橋上さんは次の球が真っ直ぐなど、バットに当てられる球種だろうというカウントの際にサインを出すのです。つまり、きちんとした分析の下、根拠をもっての戦略だということです。そのことをチームは理解していましたから、選手自身も自信をもって実行に移すことができました。だからこそ、こうしたリスクの高い戦略も成功していたのです。僕も橋上さんのような“どっしり感”をもちながら、選手と一緒に考えていける指導ができればと思っています。

 捕手3人のポジション争いに注目!

 今シーズンはピッチャー5人、キャッチャー2人、内野手3人、外野手1人の計11人の選手が新加入します。6人の野手の中で即戦力として期待しているのが、キャッチャーの2人、中溝雄也(川和高−明治学院大)と森下慶彦(神奈川工科大)です。中溝はいわゆる“キャッチャーらしいキャッチャー”です。171センチと体は小さいのですが、いざ防具をつけて構えると、雰囲気がどっしりとしているからでしょう、非常に大きく見えるのです。その姿から意志の強さもうかがい知ることができます。また、左右に強い打球を打つことができ、打者としても期待できます。一方の森下は、負けん気が強い性格の持ち主です。今オフに新人選手を集めて体力テストをした際、森下はタイムや回数など、他の選手と比べては、自分の結果に納得がいかないと「もう1本、お願いします!」と言ってきたのです。普通、初顔合わせの場は緊張して、なかなか自分を出せないものですが、森下はお構いなしに負けん気を出してきました。中溝も森下も積極性があり、既存の平野進也(東福岡高−武蔵大)もうかうかしていられません。3人がお互いに刺激を受けながら、激しい競争をすることでレベルアップしていけるのではないかと思っています。

 また、内野手の内山友希(京都成章高−龍谷大)には、これまでアルビレックスにはいなかった長打が打てる左打者として期待の大きい選手です。福岡良州(流通経済大付柏高−流通経済大)とともに中軸を担い、相手チームに威圧感を与える打者になってほしいですね。県内出身の渡邊祐真(日本文理高−東京農業大)も加入しました。彼は足が速く、守備では機敏な動きを見せ、打撃ではチームバッティングができる器用さをもっています。そうした部分を前面に出したプレーで地元ファンを沸かせてほしいですね。

 既存の選手はというと、昨シーズンまで内野の要だった池田卓(相洋高−神奈川大)を外野にコンバートします。彼は俊足で、特にトップスピードでの速さは群を抜きます。そこで外野の方が、彼の特徴を生かせるのではないかと考えたのです。本人もこのコンバートには乗り気で、実際にやらせてみると、守備範囲が広いだけでなく、打球への勘もいい。さらに肩の強さに頼らず、きちんと下半身を使って投げるので、送球もいいのです。外野でぜひ、チャンスをつかんでほしいと思います。

 また、毎年のようにNPB入りが囁かれているのが稲葉大樹(安田学園高−城西大−横浜ベイブルース)です。バットコントロールに関しては、今すぐにでもNPBの第一線で活躍できる実力をもっています。速い球にもコンパクトなバッティングで対応することができます。あとはもう一つ、絶対的なアピールポイントをもつことができれば、NPBへの道も開くことができるはず。首位打者(打率3割7分)に輝いた昨シーズン以上の活躍を期待しています。

 さて、今シーズンは高津臣吾さんが新監督として指揮を執ります。昨シーズン、高津さんを間近で見ていて感じたのは、やはり勝利へのこだわり、1球1球への執着心が強いということです。また、NPBやメジャーリーグというトップの世界で何度も修羅場をくぐり抜けてきた高津さんですから、どんな場面でも動じることはありませんでした。マウンド上での気持ちのぐらつきが全くなく、とにかくバッターを抑えることしか考えていないその姿勢は、指揮官としても発揮されるのではないかと思います。つまり、橋上さん同様、“迷いのない采配”でチームを優勝へと導いてくれるはずです。

「選手をがんじがらめにせず、萎縮しない思い切ったプレーをさせよう」
 高津さんからはそんなお話がありました。選手自身が考え、根拠をもっていることならば、思う通りにやらせてみるということです。これも橋上さんと同じですね。チームの目標はもちろん頂点に立つこと。選手たちが昨シーズン以上にハツラツとしたプレーを見せられるよう、コーチの僕も頑張りたいと思います。


青木智史(あおき・ともし)プロフィール>:新潟アルビレックスBCコーチ
1979年9月10日、神奈川県出身。98年、ドラフト6位で広島に入団したが、2000年オフに自由契約の身となる。その後渡米し、トライアウトを受け続けた結果、03年にシアトル・マリナーズ1Aと契約。しかし、同年に解雇。翌年には豪州のセミプロチームに所属し、05年には豪州選手主体のウェルネス魚沼に唯一の日本人選手として入団した。同年夏にはセガサミーに入社。08年、新潟アルビレックスBCに入団し、09年よりプレーイングコーチに就任。08年に本塁打王に輝くと、09年には本塁打、打点の2冠を獲得した。今季より専任コーチを務める。187センチ、100キロ。右投右打。
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