「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがある。因果が巡り巡って第三者に利益がもたらされることの例えである。
 スティーブ・コーエンと言えば米国のヘッジファンド、SACキャピタル・アドバイザーズの創業者だ。米フォーブス誌によれば総資産額は83億ドル(約6875億円)で世界106位。ちなみにソフトバンクの創業者でホークスオーナーの孫正義は127位(約5964億円)、楽天の創業者でゴールデンイーグルスオーナーの三木谷浩史は161位(約5135億円)。ケタはずれの金持ちだ。
 このコーエンにドジャース買収を持ちかけたと言われるのが米国を代表するスポーツエージェントのアーン・テレムである。日本では松井秀喜やダルビッシュ有(レンジャーズ)などの代理人として知られている。

 周知のようにドジャースはフランク・マッコートオーナーの乱脈経営と球団私物化により昨年6月、民事再生法にあたる連邦破産法第11条の適用を申請した。
 名門球団の新しい買い手は誰か。1次入札を通過した新オーナー候補は11グループにのぼったが、どうやらここにきて2つか3つに絞られてきたようだ。元オーナーのピーター・オマリーやヤンキースの監督として4度の世界一を果たしたジョー・トーリが属するグループは既に撤退したと見られている。

 買収のネックとなっているのがマッコートが示した条件付きの売却案だ。球団本体は売却するが、ドジャースタジアムの駐車場とテレビの放映権は引き続き自らの会社で管理したいとマッコートは主張しているという。「これは無理な要求。おいしいところだけ持っていこうとしている。とりわけ駐車場に関する権利は新オーナーにとって死活問題。もしマッコートが勝手に駐車場代を値上げすれば客は来なくなる。おいそれとは受け入れられない」。ある関係者はそう語っていた。

 しかし、この2つの問題がクリアすれば身売りは一気に動き出す可能性が高い。買い手の一番手と見られるのがコーエンのグループ。親しい関係者にコーエンは「買収した場合、経営は野球ビジネスに詳しいテレム氏に任せたい」と語っているという。
 そうなれば、年初来くすぶっていた「松井ドジャース入り」が再燃するのは確実。「風が吹けば」となればいいが……。=敬称略=

<この原稿は12年3月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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