第15回「指導者養成が最重要テーマ」ゲスト橋本聖子氏

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二宮清純: 今回のゲストは、今年6月、日本オリンピック委員会(JOC)で女性初の会長に就任した橋本聖子さんです。

橋本聖子: 本日はよろしくお願いいたします。

 

二宮: 新会長にはどのようなことを期待していますか?

伊藤清隆: スポーツ基本法が2011年に施行されてからいい方向に進んではいるのですが、まだ自治体によっては温度差があります。理解の深い自治体は、我々のスポーツを通して子どもの人間力向上や非認知能力を身に付けるという教育的活動を認めてくれています。その一方で、一部の自治体では1961年に制定された旧法のスポーツ振興法を基につくられた条例によって、我々のような民間企業は排除されるという問題があります。

 

橋本: それは由々しき問題ですね。

伊藤: もちろん誰でも施設を使っていいかと言われれば、そうではありません。各自治体に認められた企業・団体が使用するべきです。ただ現在使用が許可されている、いわゆるボランティアで指導を任されている人の中には、マナーが悪かったり、暴言・罵声を浴びせたりする者もいると聞きます。だからこそ営利、非営利を判断基準にするのではなく、きちんと中身を見て精査して欲しいんです。

橋本: 今後のためにも、そこは改善すべき点ですね。日本スポーツ協会をはじめ、競技団体の協力も必要になってくるでしょうね。

 

二宮: 3年前には、いわゆる国策として部活動の地域展開がスタートしました。JOCはどうサポートしていく方針でしょうか?

橋本: そこはまだ議論を尽くす必要があると思います。我々の強みとしては各競技団体と連携できる点。指導者養成のためのナショナルコーチアカデミー事業を行っていますので、そのカリキュラムを基に、オリンピアンや元アスリートたちが、それぞれの地元で部活指導を行うというかたちがあってもいいと思います。

 

ジュニア指導に必要な我慢

伊藤: 部活動を地域展開していくという動きは、部活動をスポーツに戻すチャンスだと思っています。我々は、いつかは47都道府県の部活動支援をしたい。なぜなら子どもたちが喜んでくれるからです。これまでは野球を知らない先生が、野球部の顧問を任されるというミスマッチも起きていました。

橋本: そのミスマッチによってスポーツを諦めざるを得ない子もいますね。

 

二宮: 前回のゲスト・大島伸矢さん(スポーツ能力発見協会理事長)もおっしゃっていましたが、スポーツを辞める子は、実際にそのスポーツが嫌いになったわけではない。指導者が嫌いで辞めるか、チームメイトとの人間関係で辞めるか、だと。

橋本: スポーツや部活動に限らず、学校にも同じことが言えるかもしれませんね。

 

二宮: それを踏まえれば、指導者やチームメイトさえしっかりしていれば、スポーツが嫌いになる子は格段に減るでしょうね。

橋本: だからこそ指導者の責任は重大です。例えば金メダルを将来取るかもしれないというほどの才能を持った子がいても、スポーツの楽しさを伝えないまま指導していくと、長続きしない場合がある。そこは指導者の力量が問われるところ。JOCとしても指導者養成を重要視し、ナショナルコーチアカデミー事業をナショナルトレーニングセンター内に設置しました。

 

二宮: いずれは部活動指導に、JOCなどが認定するライセンスをひも付けるとか?

橋本: 私はその方がいいと思っています。トップレベルの選手たちを扱うコーチアカデミーのカリキュラムは基準がとても高いので、全く同じものを転用することはありません。ただ、必要な知識を持った上で、部活動の指導に参加してもらう。そのための人材づくりは喫緊の課題と考えています。

 

二宮: ライセンス制度について伊藤さんはどうお考えですか?

伊藤: 素晴らしいと思います。たとえライセンス制度がなかったとしても、指導者として必要なことを研修し、学んでいただいてから現場に立ってもらうのが理想です。我々のスクールを受け持つ指導者にも、それは徹底しています。

橋本: 私は特に重要なのがジュニア期の指導者だと考えています。発育過程で大事なのは「完成させないこと」。日本の指導者には、ジュニアの時点で選手を完成させたい人が多過ぎるんです。子どもはケガをしていても出たいと言います。ケガをしていることすら隠すかもしれません。その時に本人をいかに説得できるか。親御さんも含めてですね。そこは指導者の我慢が問われる。

 

全国の中学を回る

二宮: 日本では早めに結果を出すことが、その後のキャリアパスに有利だと考える指導者が多いですね。その弊害も考えないといけない。

橋本: 成長の度合いやスピードは選手によって違いますからね。結果が出ないからダメ、ではなく将来を見据えた指導が必要です。選手それぞれに合った指導法を見極める力も求められます。それは選手時代の実績だけで得られるものではないし、指導者としての実績だけでも測れない。大事なのは知識と経験です。

 

二宮: ライセンス制度への不安があるとしたら、杓子定規の指導になってしまわないかという点です。指導者それぞれの個性、そしてある種の遊びの部分も必要でしょうね。

橋本: その通りだと思います。最初から指導者が選手に競技力だけを追い求めていては、型にはめてしまう恐れもある。まずは指導者としての基本を押さえておく必要があります。指導者としての基本とは、体のバランスを見られること。バランスが整っていればケガもしにくいんです。あとは食生活や睡眠などの知識も必要。それらの基本を学ばないうちは、指導者として通用しないと思います。

 

二宮: 夏季冬季合わせて8度もオリンピックに出ている橋本さんの言葉だけに重みがありますね。JOCと言えば、かつてはオリンピックでのメダルばかりを気にしていた印象がありますが、橋本さんは健康や教育、気候変動、多様性の実現など社会課題解決についても取り組んでいくメッセージを出しています。

橋本: そうですね。強化とオリンピックムーブメントの推進が、JOCの事業の柱です。強化という点では、世界の頂点を目指していくには、裾野を広げていかないといけません。そのためには選手のみならず指導者も含めた人づくりが非常に重要になってくる。オリンピックムーブメントの一環として、スポーツだけでなく、健康、食などを一体化した教育プログラムで、日本全国の中学校を回ろうという計画も立てています。

 

二宮: その意見に私も賛成です。おっしゃるようにスポーツには副作用がない。いわば漢方薬そのもの。JOCとしては、今後日本スポーツ協会とも連携を図っていくのでしょうか?

橋本: はい。一部では、その動きを見て「合併する力が働いているんじゃないか」という声も出ていますが、一切考えていません。そこはきちんと棲み分けしたいと思っています。

 

二宮: では最後に伊藤さんから橋本さんにメッセージを。

伊藤: 我々も日本の部活動を変えることで、スポーツの発展に役に立ちたいと考えています。ぜひ。またご指導ください。

橋本: こちらこそお願いいたします。一緒になって、スポーツをそして日本を良くしていきましょう。

 

(鼎談構成・写真/杉浦泰介)

 

橋本聖子(はしもと・せいこ)プロフィール>
1964年、北海道出身。スピードスケート競技で84年サラエボ、88年カルガリー、92年アルベールビル、94年リレハンメルのオリンピック4大会、自転車競技では88年ソウル、92年バルセロナ、96年アトランタのオリンピック3大会に出場した。アルベールビル大会では、女子1500mで銅メダルを獲得。95年の参議院選挙に自由民主党から出馬して当選。アトランタ大会には国会議員としての責任を果たしながら出場している。08年、外務副大臣に就任。06年から19年まで日本スケート連盟会長を務めた。19年から21年まで東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当大臣。21年2月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長に就任する。今年6月、日本オリンピック委員会(JOC)会長に選出された。

 

伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>

1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数は3年連続国内No.1、部活動受託校数も国内No.1(※1)の実績を誇る(2024年12月現在)。2025年10月、米国ナスダック市場に、日本のスポーツビジネス企業として初の上場を果たす。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。

 

二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>

1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士前期課程修了、同後期課程単位取得。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。

 

※1

*スポーツスクールの会員数3年連続 国内No.1

・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較

・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。

*部活動受託校数 国内No.1

・部活動支援事業売上高、上位3社の2024年の受託校数を比較

株式会社 東京商工リサーチ調べ 2024年12月時点

 

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リーフラス株式会社

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サッカー、野球、バスケットボール、ダンスなどのスポーツスクール事業を展開している リーフラス株式会社とのタイアップコーナーです。 日本のスポーツ、教育の現場における様々な社会課題解決に取り組む同社代表取締役の伊藤清隆氏が、 スポーツ界の有識者やご意見番をゲストに迎え、スポーツの未来を展望します。 司会進行は当HP編集長・二宮清純が務めます。

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