先週末(11日〜13日)の香川との首位攻防戦は3連敗。香川との差は6ゲームに開き、前期の自力優勝の可能性が消滅してしまいました。3タテされた原因を一言で表現すると「野球力の差が出た」となるでしょうか。攻守に愛媛は当たり前のプレーが当たり前にできませんでした。基本を徹底できなかった点は僕も含めてチーム全体で反省しなくてはいけないと感じています。
 そんななか、チームの中心選手として頑張っているのは4番の岡下大将高田泰輔です。特に岡下は香川戦でも2試合連続で先制点をたたき出すなど、いいところで打っています。昨季の岡下は前期こそ好調だったものの、後期で失速。打率.260、3本塁打、38打点に終わりました。彼の敵は相手ではなく、自分自身にあります。まだ20歳と若いせいか、昨季は自分をコントロールしきれない部分が見受けられました。

 ただ、今季はこれまでのところ、そういった姿が見えません。持ち味である元気の良さ、積極性がいい方向に出ています。もちろん、まだシーズンは4分の1が終わった程度。コンスタントに継続できるかどうかが、もうワンランク上を目指せるかの分かれ道になるでしょう。

 また23歳の高田も、ようやくチームを引っ張る自覚が出てきました。昨季までは気の抜けたプレーが時折見られたのですが、今季は守備も走塁も一生懸命やっています。普段の練習でも後輩たちの面倒を見る余裕が出てきました。まだ打率は.246と平凡ですが、この姿勢で野球に取り組めば、自ずと結果は出てくるはずです。彼には監督就任当初からチームの軸となってほしいと期待していました。NPBのスカウトからもバッティングは評価されていますから、その他の部分でもアピールできれば、ドラフト指名が現実味を帯びてきます。

 開幕から新人で予想以上の活躍を見せているのは、クリーンアップを打っている大井裕喜でしょう。ここまでチームトップの打率.375。力強いスイングで好成績を残しています。しかし、勝負はここから。これだけ打てば、相手もマークしてきますから、壁に当たることもあるはずです。

 現に高打率を残しているにもかかわらず、四球はわずかに3つ。ヒットが出ている反面、誘い球に手を出し、不本意な打席に終わっているケースも目立ちます。狙いと違うボールが来た際に当てに行くのではなく、いかにバットを止めて待つか。そしてカウントを有利にし、好球を自分のスイングで打ち返せるか。プロでは当然とも言えるレベルに到達することが今後の課題になります。

 投手ではいろいろと役割分担を考えた結果、ルーキーの井上貴信にクローザーを任せました。以前、紹介したように彼はマウンドさばきがよく、インコースにも強気で攻められます。春のキャンプから見てきて、気持ちの切り替えが早く、抑えに適性があると感じました。

 ただ、彼にとっては1年通じて投げるのは初めての経験。体力面がまだ弱く、連投すると、どうしても球のキレ、変化球の曲がりが悪くなります。この香川3連戦でも2点リードを守り切れず、集中打を浴びて逆転を許した試合がありました。チームにとっては痛い敗戦でしたが、井上にはこれを乗り越えてクローザーとして成長してほしいと思っています。

 現時点では香川との差を一気にひっくり返すのは容易ではありません。しかし、チームを立て直せる状況は整ってきました。まず地元出身の元NPB選手、橋本将が間もなく復帰できそうです。彼には本人の希望もあり、開幕時点で少し無理をさせてしまいました。長年、キャンプ、オープン戦と状態をあげてシーズンに臨むスタイルを身につけていた選手に、ほぼ、ぶっつけ本番で100%の力を出せというのは酷な話です。これではチームにも本人のためにもならない。そう考えて彼にはもう一度、ミニキャンプをさせて体のキレを取り戻させました。最初はDHからの出場になるでしょうが、慣れてきたらマスクを被り、若い投手陣を引っ張る役割を望んでいます。

 また開幕以来、登板のない河原純一も6月には戦列に加わる予定です。彼には橋本同様、NPB復帰という目標があります。中途半端なかたちで投げても、かえって評価を落とすだけでしょう。少し時間はかかりましたが、ようやく体が万全な状態になり、調子も上向いてきました。彼がリリーフでバリバリ投げてくれれば、先発も抑えもかなりラクになります。大事なバッテリーの部分で経験豊富なベテランがいてくれれば、試合運びももう少し落ち着いてくるはずです。

 香川が独走しているとはいえ、実際に対戦してみると各球団の戦力差はあまりないと感じます。メンバーが揃い、チームの歯車が噛み合えば、まだまだ逆襲は可能です。球場でファンの方の応援を目にすると、「今年こそ勝ってほしい」という思いがヒシヒシと伝わってきます。期待している県民のみなさんのためにも、優勝という目標を諦めるわけにはいきません。

「攻撃では相手より1点でも多く取る。守備では相手より1点でも失点を少なくする」
 これが野球の原理原則です。3連戦で感じた香川との「野球力の差」を一刻も早く埋められるよう、チーム全体で話し合い、何をすべきかを明確にして実践したいと感じています。急激にはチームは変わらないかもしれません。でも、必ず立て直します。ファンの皆さんには期待して見守っていただければと思っています。
  

星野おさむ(ほしの・おさむ)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1970年5月4日、埼玉県出身。埼玉県立福岡高を経て、89年にドラフト外で阪神に入団。内野のユーティリティープレーヤーとして、93年に1軍デビューを果たすと、97年には117試合に出場。翌年には開幕スタメンで起用される。02年にテストを経て近鉄へ。04年に近鉄球団が合併で消滅する際には、本拠地最終戦でサヨナラ打を放つ。05年に分配ドラフトで楽天に移籍し、同年限りで引退。06年からは2軍守備走塁コーチ、2軍打撃コーチなどを務めた。11年より愛媛の監督に就任。 
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