「私は国家元首ではありませんが、国よりももっと大きな集団、若者の代表です」。3年前、コペンハーゲンで初々しい演説をした少女は、今年18歳になるはずだ。
 16年夏季五輪・パラリンピックの開催都市を決めるIOC総会。プレゼンテーションでのチーム東京のトップバッターは白いパーカ姿の15歳の女子体操選手だった。神奈川県に住む三科怜咲(みしなれさ)さん。流暢な英語で東京の魅力、優位性をアピールした。

 少女の起用は招致委員会が考えに考え抜いた末の秘策だった。「(プレゼンテーションでは)シカゴの次が東京。バラク・オバマ大統領のスピーチに対抗できる者はいない。ならば純朴な少女を出すことで、一度会場の空気を白紙に戻そう……」。ある招致委員会関係者はそう語ったものだ。

 結果的に東京は第2ラウンドで敗れ去り、「南米初」を謳い文句にしたリオデジャネイロが3度目の挑戦で悲願を達成したわけだが、東京のプレゼン自体は悪くなかった。パラリンピックで21個のメダルを獲得した盲目のスイマー河合純一の「目は見えないけど、心の目で東京オリンピックとパラリンピックが開かれている光景が見える」とのスピーチには柄にもなくジーンときた。

 問われるのは継続力である。20年夏季大会の開催地はマドリード、イスタンブールと東京の3都市に絞られた。前回、決選投票でリオに敗れたマドリードも強敵だが、それよりももっと怖いのが「イスラム圏初」を謳うイスタンブールだ。どうも近年、IOCは「〜初」という看板に弱い。ここは00年から4大会連続で立候補しており、いわば“4浪“の身だ。ちなみにマドリードは3浪中。18年冬季大会開催が決定した韓国・平昌も3度目の挑戦での満願成就だった。

 20年大会開催地は来年9月にブエノスアイレスで開催されるIOC総会で決定する。気の早い話だが、私が招致委員会の人間なら、チーム東京のプレゼンテーションでは前回同様、トップバッターには三科さんを起用する。そして、こう切り出すのだ。「4年前の私を覚えていますか……」。少女から乙女へと成長した彼女の姿に、4年を経てブラッシュアップされた計画の実態を重ねるのだ。コンセプトの継続性も強調できる。

 コペンハーゲンで植えた苗がたくましく、美しく成長した姿をブエノスアイレスで披露しない手はない。


<この原稿は12年6月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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