13日現在、信濃グランセローズは10勝13敗2分で、上信越地区2位。首位を走る新潟アルビレックスBCとは3ゲーム差です。今年は自主トレーニングやキャンプでは天候に恵まれず、グラウンドでの実戦練習を満足にできないままシーズンを迎えてしまいました。その不安が的中し、開幕直後の7試合は白星を挙げることができずに苦しみました。ロースコアでのゲームが多く、全体的にピッチャーは頑張ってくれていましたが、いかんせん得点が取れなかったのです。しかし、ようやくここにきて打線がつながるようになっています。試合を重ねることで、生きたボールに反応できるようになったのでしょう。チームの勢いを今、ひしひしと感じています。
 打線がつながる要因には、やはり打つべき選手が打てるようになってきたことが挙げられます。既存の今村亮太(佐久長聖高−東京経済大)や原大輝(広島国際学院高−北海道東海大)は当然ですが、新加入の大谷尚徳(世田谷学園高−立正大−フェデックス−群馬ダイヤモンドペガサス)や大平成一(波佐見高−北海道日本ハム)、マルコスの3人が実力を発揮し始めたことが大きい。開幕直後はこの3人が全くと言っていいほど機能せず、得点が奪えませんでした。そのために、これまでには経験のないほど打順を替えていたのです。しかし、ようやく今は固まりつつあります。それも打線が好調の要因となっているのでしょう。

 私が練習の時に口を酸っぱくして言っているのは「当てるバッティングをするな」ということです。とにかく、思いっきり強く振り切ること。これを重要視させています。それが功を奏しているのでしょう。現在、チーム本塁打数はリーグトップです。特徴的なのは、ある特定の選手が量産しているのではなく、複数の選手が打っているという点です。スターティングメンバーに入っている中・長距離バッターのうち、本塁打を打っていないのは4番・原くらいでしょう。しかし、原はチャンスにめっぽう強く、頼りがいのある主砲としてチームに貢献してくれています。つまり、どこからでも得点できる打線になりつつあるのです。

 チームに必要な若手の台頭

 チームの浮上とともに、新しい戦力が加わりました。昨年、練習生として入団し、先月24日に選手契約を結んだ宮澤和希(東海大三高)です。入ってきた当初からバッティングに関しては非凡な才能を持っていると感じていました。しかし、右ヒジを3度手術していましたので、コンディショニングトレーナーと相談しながら慎重に経過を見てきたのです。そして、ようやく医師からのOKをもらい、満を持しての出場となった6月2日、先発でのデビュー戦、「9番・DH」で出場した宮澤は無死満塁とチャンスでまわってきた2打席目にきっちりとタイムリーを放つと、次の3打席目にはレフトスタンドへのホームランを放ってみせたのです。私の予想を超える活躍で、早速チームの勝利に大きく貢献してくれました。

 身長181センチ、体重85キロと体格のいい宮澤ですが、実はチームで一番の俊足の持ち主でもあります。その足を生かすためにも、肩も強い方ですので、将来はサードをと考えています。しかし、彼はケガで高校時代からスローイングをしていません。ですから、まずは外野で実戦の守備に慣れさせていこうと思っています。素質的にはNPBにいく可能性を秘めている選手ですので、ゆくゆくは大型内野手としての活躍が期待されます。

 そしてもう一人、成長が期待される若手がいます。涼賢(長野日大高)です。彼はバッティングセンスに優れた打者で、特に巧みなバットコントロールには非凡さを感じさせます。しかし、まだ好投手のボールのキレにはついていけないところがあり、現在は打率1割台と苦しんでいます。それでも実戦経験を積むと同時に、下半身がしっかりしてくれば、安定したスイングができるようになるのではないかと期待しています。

 チームとしては昨シーズンよりだいぶ減ってはいるものの、やはりまだ多いのがミスです。簡単なゴロをファンブルしたり、あわてなくてもいいところで暴投したり……と、半数以上がいわゆる凡ミスです。特に接戦になると、メンタル面に課題があるのか、ミスが出てきてしまうのです。結果的にミスをした方が負けるということは多々あります。ですから、優勝するためにはいかにミスを減らすかが重要です。

 とはいえ、野球にミスはつきものでもあります。消極的なプレーはともかく、攻めたプレーでミスをしたのであれば、致し方のないこと。それよりも気持ちを切り換えて、1球1球に集中することが何より大事。そうすれば、つまらないミスは自ずと減ってくるものです。前期は残り11試合。新潟とは3ゲーム差の中で、直接対決も3試合ありますから、まだまだ優勝のチャンスはあります。ベンチのムードも非常によく、私自身も手応えを感じていますので、ぜひ初優勝を狙っていきたいと思います。


佐野嘉幸(さの・よしゆき)プロフィール>:信濃グランセローズ監督
1944年4月1日、山梨県出身。甲府工業高から1962年、東映(現・北海道日本ハム)に入団。72年に南海へ移籍し、レギュラーに定着した。73年にはリーグ優勝に貢献する。75年のシーズン途中で広島に移籍し、同年チーム初のリーグ優勝に貢献。79年に現役を引退し、翌年から国内外の球団でコーチや二軍監督を務める。2001年〜03年にはMLBパドレスのスカウトに就任。04年〜08年は千葉ロッテのコーチを務めた。10シーズンより信濃の監督に就任した。
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