前期は借金8の3位。成績が低迷した要因は投手陣の経験不足です。昨季、優勝を経験したメンバーでチームに残ったピッチャーは3名のみ。頼みにしていたカープドミニカアカデミーのシモンとバレンティンも故障で離脱し、コマ不足に陥ってしまいました。ピッチャーをカバーするはずの打線も、各選手が軒並み調子を落とし、守りのほころびも目立ちました。投打にリズムに乗れないまま前期が終わってしまった印象です。
 後期に巻き返すためのポイントはもちろん投手陣にあります。前期で経験を積んだ選手たちが、どこまで成長するか。1人でも2人でも一本立ちしてくれれば、チーム状態は変わってくるはずです。

 たとえば4月にノーヒットノーランを達成した安里基生は予想通りプロの壁に当たりました。肩痛を起こして一時戦列を離れた影響もあり、その後はわずか1勝。結果ばかりを求めて、肝心の自分の持ち味を見失ってしまいました。しかし、彼が一回り大きくなるには、ここを乗り越えなくてはなりません。

 壁を打破するには、しっかり自分のピッチングに磨きをかけることです。彼には「試合に向けた調整は必要ない」と話をしています。試合のことは考えず、とにかく毎日投げて練習する。NPBのピッチャーのように試合に合わせて練習量をコントロールする必要は全くありません。結果が出ていないのですから、今まで通りの練習では成長しないことを自覚し、レベルアップを図ってほしいと感じています。

 その点で安里が参考にしてほしいのは広島から派遣された永川光浩です。NPBから来ただけあって、取り組みはまじめで練習熱心。同じく派遣された香川の山野恭介と比較すると結果は出ていませんが、登板を重ねれば伸びてくると見ています。彼の課題は武器になるものがないこと。左腕というアドバンテージがありながら、ストレートも変化球もごく普通です。また制球力もいいとは言えません。後期は中継ぎでより大事な場面で投げてもらう方針です。打者と勝負するなかで、「これで抑える」というものをぜひつかんでほしいと願っています。

 苦しい台所事情のなか、練習生から昇格し、中継ぎで使えるメドが経ったのが地元・池田高出身の大藤謙吾です。高卒1年目ながらフォームが良く、連投可能な体力があります。ストレートの球速は140キロ程度ですが、鍛えれば、もっと伸びるでしょう。もちろん、まだ現状は投げているだけの選手。プロのピッチャーとなるには、覚えなくてはならないことがたくさんあります。彼もどんどん投げさせるなかで成長に期待したいところです。

 また昨年、防御率0点台を記録し、優勝の立役者となった岩根成海の復調も逆襲には欠かせません。今季は18試合に登板して防御率3.50と打ち込まれています。ボール自体は昨年と比べて悪くなっていないにもかかわらず、結果が出ないのはなぜか。それはメンタルの部分が大きく関わっているように感じます。

 結果が出ないあまりに、その原因を探ろうと考えすぎ、かえってフォームを崩しているのです。マウンド上で不安を見せていてはバッターを打ち取ることはできません。どこかで納得のいくピッチングができれば復調するはずですが、なかなかきっかけをつかめず、負のスパイラルに陥っています。

 こんな時はどうすればよいか。僕の経験ではいい意味での開き直りも必要と感じます。ピッチャーは誰しも「打たれたくない」という気持ちは持っているもの。しかし、裏を返せば「打ってもらう」のも役割です。よく言われることですが、どんなに素晴らしいバッターでも打率は3割台です。つまり、10回打席に立てば7回は凡打になります。しかし、四球はどんなに打率の低い選手でも確実にひとつの塁を与えてしまうのです。確率から考えれば、どちらがいいかは言うまでもないでしょう。

 岩根に限らず、アイランドリーグのピッチャーは最初に厳しいところに投げようとして、自らピッチングを苦しくしているケースが見受けられます。コースを狙い過ぎて、カウントを悪くし、肝心な勝負球が甘く入ってしまうのです。一方、NPBの一流ピッチャーはバッターの様子を見ながら、初球に平然と甘いコースでストライクを取りにくることがあります。そうやって有利なカウントに持ち込み、最後はボール球で打ち取るのです。こういった投球術を身につければ、もっと楽にピッチングができると感じています。

 前期は優勝した香川に11.5ゲームもの大差をつけられましたが、上位のチームと戦力差は感じていません。香川の投手陣には完璧に封じ込められたかたちではありませんし、愛媛はデイビット・トレイハン、小林憲幸の先発2本柱は強力ですが、打線は徳島のほうが上です。投手陣が頑張り、ディフェンスがしっかりすれば、後期は互角以上に戦えると見ています。

 何といっても我々は昨季のチャンピオンチーム。このままズルズルと負けるわけにはいきません。チーム内も後期に向けて雰囲気は良くなってきました。後期は開幕の高知戦の後、香川、愛媛との対戦が7試合続きます。ここで大きく勝ち越し、波に乗りたいものです。また1からのスタートで選手とともに頑張ります。応援よろしくお願いします。


島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝あげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年よりBCリーグ・信濃の投手コーチに。11年から徳島の投手コーチを経て、12年より監督に就任。
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