前期の全日程が終了しました。富山サンダーバーズは16勝19敗1分けで、北陸地区最下位に終わりました。一番苦しかったのは5連敗を喫したゴールデンウィーク。そこから粘って追い上げたものの、終盤の勝負どころとなった、6月22、23日の福井ミラクルエレファンツ戦で連続完封負けを喫してしまったのです。それでも、優勝した石川ミリオンスターズには5勝3敗と勝ち越したことは、チームにとって大きな自信となったと思います。
 前期で浮き彫りとなった最大の課題は、やはり投手力でしょう。シーズン前、投手陣には「どれだけヒットを打たれてもいいから、できるだけ四球は出さないようにしよう」と言っていたのですが、結果は140個という四球を積み重ねてしまったのです。その原因は技術だけではありません。必要以上に、ヒットを打たれることを怖がっているため、ストライクゾーンで勝負する勇気が持てないのです。そのため、どうしてもボールカウントが先行し、四球になるか、あるいは四球になることを避けてストライクを取りにいった甘いボールを痛打されることになるのです。富山には絶対的な勝負球を持っている投手はほとんどいません。だからこそ、ストライクゾーンで勝負しなければならないのです。ヒットを打たれてもいいから、勇気をもってストライク先行のピッチングをしてほしいと思います。

 それでも先発陣は、よくゲームをつくってくれました。特に2年目の元気(光星学院野辺地西高)の成長には目を見張るものがあります。昨季はそれほど登板機会を与えられなかった元気ですが、オフの間に下半身を中心にしっかりと鍛えたのでしょう、今春のキャンプでは体が一回り大きくなっていました。そうしたフィジカル的に強さが増したことで、フォームにブレが少なくなり、コントロールの安定につながっているのです。また、もう一人の先発投手であるルーキーの高塩将樹(藤沢翔陵高−神奈川大−横浜金港クラブ)は、トライアウトで見た時から実戦タイプと思っていましたが、実際にストレートと変化球どちらも制球力があります。前期は白星に恵まれなかったものの、防御率2.39とまずまずのピッチングを見せてくれています。

 そしてクローザーには元NPBの杉山直久(舞鶴東高−龍谷大−阪神)がいますから、課題は中継ぎにあるのです。当初はメサ(ドミニカ)をセットアッパーとして起用する予定だったのですが、このメサがストライクが取れないという大誤算。そこで、前期は3回ほど先発に起用しました。すると、これが功を奏しました。中継ぎとして1イニングだけを投げていた時は、とにかく力いっぱい投げていたメサですが、先発では長いイニングを投げようと力をセーブしながらのピッチングとなり、制球力が安定し始めたのです。後期は先発としても中継ぎとしても、期待したいですね。

 勝負どころでのバッティング

 一方、打線はというと、314というリーグトップの残塁数が目立ちます。しかし、プラスに考えれば、それほど出塁しているという証拠でもあるのです。チーム打撃成績を見ても、ヒットを打ったり、四球を選ぶ力は十分にあるのです。しかし、いかんせん、最後の1本が出ないのです。その原因は、打つべきボールではないボールに手を出していることにあります。もちろん、追い込まれれば不利になるわけですから、その前に積極的に打ちにいく姿勢は大事です。しかし、ただやみくもに打つのではなく、場面やカウントによって、どういうボールをどの方向に打つべきかを常に考えなければいけません。

 その中で、毎試合のようにコンスタントにヒットを量産し、リーグ7位となる打率3割1分9厘をマークしたのが有澤渉(高岡商業高−日本体育大−きらやか銀行)です。今年3月に練習生として加入し、5月に選手登録されたばかりの有澤ですが、本当によくやってくれています。50メートル6秒ジャストの俊足でチームトップの盗塁8をマークし、さらにホームランも2本打っているのです。打席に入れば、簡単にアウトにされず、しつこくボールに食らいついていく彼は、近鉄などで活躍した大村直之に似たバッターです。

 前期はチーム事情から、1番、2番、3番と打順が変わりましたが、理想はやはり1番での起用です。甘く入ればヒットだけでなく一発もありますし、かといって厳しいコースばかり攻めて粘られた挙句に四球で出してしまえば、今度は足での揺さぶりがある。これほど投手にとって嫌な1番バッターはいないでしょう。ケガでほとんど前期は棒に振ってしまった生島大輔(大阪桐蔭高−早稲田大−JR東日本)が復帰しましたから、「1番・有澤」「2番・生島」、さらにその後の中軸を担うチームトップの27打点を叩き出した島袋涼平(おかやま山陽高−アトランタブレーブスルーキーリーグ−香川オリーブガイナーズ)、長打の力あるジョニー(ベネズエラ)、日野悠三(早稲田実業高−早稲田大−府中ダイヤモンドドッグス−新潟アルビレックスBC)の5人が打線のカギを握ることでしょう。特に生島がどう機能していくかが得点力に大きく影響するのではないかと見ています。

 さて昨季の前期、残り3試合でマジック1とし、地区優勝を目前にしながら3連敗を喫し、石川に逆転優勝を許した際の要因に「勝負どころの弱さ」を挙げました。今季の前期も、やはり勝負どころの弱さを露呈してしまいました。正直、19敗のうち、完敗だったのは6、7試合程度。あとの10試合ほどはどちらに転んでもおかしくなかった試合であと1本が出ず、逆に踏ん張り切れずに相手にはその1本を許してしまったのです。

 前述したようにチャンス時には「どのボールをどこに打つべきか」ということを考えなければいけません。そして、もう一つ重要なことは、甘いボールをファウルではなく、内野ゴロでもいいから前に飛ばすこと。もちろん、それは「どこに打つべきか」ということを意識した内野ゴロです。そうすれば、ボテボテのゴロが幸いするかもしれませんし、いいところに転がれば、外野に抜ける可能性だってあるのです。つまり、得点をするにはヒットだけではなく、いろいろなかたちがあるということです。

 それを象徴した試合があります。6月1日の石川戦です。この試合、富山は5−4で逆転勝ちを収めたのですが、実は富山には1本もタイムリーは出ませんでした。では、どうやって得点をしたのかというと、内野ゴロの間に入った3点と、犠牲フライの2点だったのです。これは三塁ランナーを進められるところに打球を転がしたからこそであり、きちんと犠牲フライとなるように打ったからこそのもの。得点圏にランナーがいる時に何が重要か、選手たちも身をもって知ることができたと思います。

 14日からは後期がスタートします。最重要課題は、いかに失点を減らすことができるかということにあります。そのためには、やはり投手陣が無駄な四球を出さないこと。前期の失点のうち、おそらく5割近くが四球が絡んでの失点だったのではないでしょうか。そう考えても、四球の数を減らすことが試合に勝つ重要ポイントであることは間違いありません。それができたうえで、何か富山の特徴が出るような試合をお見せできればと思っています。

進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。2010年に富山の守備コーチとなり、12年からは監督として指揮を執る。
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