JOCはロンドン五輪での目標を「世界5位以内」と定めた。何を持って5位以内とするのか。言うまでもなく、それは「金メダル数」である。
 本紙の国別メダル表を見ても分かるように金メダルの数が順位を決定する。大会4日目が終了した時点で日本は金1、銀4、銅6の計11個のメダルを獲得しているが、順位では金2、銀2、銅2の韓国、さらには金2のカザフスタンにも及ばない。この時点では9位だ。
 夏季、冬季を問わず、近年、五輪においてアジア勢の躍進が著しい。北京五輪では中国1位、韓国7位、日本は8位。バンクーバー五輪では韓国5位、中国が7位、日本は5つのメダルを獲得しながら金メダルは0で20位だった。

 中国と韓国の強化の特徴は徹底した「選択と集中」にある。メダルの獲れそうな競技種目に資金と人的資源を投入し、それ以外の競技種目には目もくれない。中国は国家体育総局、韓国は文化体育観光部がスポーツ政策の全般を指揮しているが、官民一体となってのメダル獲得戦略は狙い通りの成果をあげているといっていいだろう。

 こうした傾向を踏まえ、「日本も中国や韓国を見習うべきだ」との声を、最近至る所で耳にする。要するに日本も「選択と集中」の方針を明確に打ち出せ、というわけだ。
 しかし、ちょっと待ってもらいたい。中国や韓国のやり方が全て正しいのか。結論から言えば、私は日本には日本のやり方があると考えている。

 具体例を述べよう。2年前のバンクーバー五輪において男子フィギュアスケートで高橋大輔が銅メダルに輝いた。同種目でのメダル獲得はアジア勢としては初の快挙だった。
 日本が男子フィギュアに初めて代表を送り込んだのは1932年のレークプラシッド五輪。2010年のバンクーバー五輪を含め、これまで、のべ29人の代表がリンクに立ったが、表彰台は遠かった。もし「選択と集中」を強化の軸に定める国なら「メダルが狙えない競技種目にこれ以上、資源を投入するのはバカげている」となり、早い時点で切り捨てていたはずだ。

 日本の男子フィギュアは五輪という畑に種を蒔き、果実を手にするまでに実に78年の歳月をかけた。ここに私は日本の底力を見る。隣の芝生が青く見えるのは、いつの時代も、どんな世界も同じである。

<この原稿は12年8月1日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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