第16回「いいコーチとは学ぶ人」ゲスト中竹竜二氏
二宮清純: 今回のゲストは、株式会社チームボックス代表取締役CEOの中竹竜二さんです。日本オリンピック委員会(JOC)サービスマネージャーとして全競技の指導者育成を主導するほか、一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事も務め、スポーツ界やビジネス界のリーダー育成を行なっています。
中竹竜二: 本日はよろしくお願いいたします。
二宮: 部活動の地域展開について、どう思われますか?
中竹: 教員の働き方という観点から、これまで部活動指導が、大変な負担になっていました。その負担が軽減される方向に向かうのはいいことだと思います。あとは先生が教えたいけど、指導の知識がないため、教えられないという、いわゆるミスマッチが起きていた。その課題を、部活動の地域展開によってクリアできるはずです。もちろん、すぐの移行は簡単でないでしょうし、いろいろな制約があると思いますが、いい流れになってきています。
二宮: ミスマッチという点では、野球一筋だった人がサッカーを教えたり、ラグビー経験者が柔道部を指導したりするというケースもあったと聞きます。
中竹: そうですね。部活動に関しては、本人が望んでいないにも関わらず、学校側からの指示で部活動の顧問を嫌々担当する人も少なくなかった。部活動の地域展開によって、それが是正されていくことを期待しています。
二宮: 昨年12月に政府が2025年度補正予算を成立させ、公立中学校の部活動の地域展開に関する事業は約82億円を計上しました。
伊藤清隆: そうですね。26年度は議連も設立されると聞いています。部活動の地域展開をしたくても予算がないという自治体があったので、国からの予算が回っていくことで、部活動の地域展開は全国的に広がっていくと思います。
二宮: 部活動の指導に関して、「部活動は教育の面があるので、教員が担当すべき」という声が一部にあります。
中竹: コーチングとは教育ですが、教員免許を持っているからといって指導がうまいかというと、それは別の話です。むしろコーチを生業としている人のほうが、指導することに関しては長けているはず。教員の方には時間的な制約があり、朝から夕方まで自分の教科を教えながら、事務作業もこなさなければなりません。その点、コーチを生業にしている人のほうが、指導について学ぶ時間を確保でき、その分、指導力を高めることができます。
二宮: コーチをコーチングする立場として、最近の指導者の傾向は?
中竹: 若い指導者が増えましたね。今までは長年現役を続け、引退後に指導者に転身するというケースが多かった。最近は若くして選手を辞め、早く指導者に移行したいと考える人が増えてきたと思います。
二宮: 若い指導者が増えてきた点について、伊藤さんも実感されていますか?
伊藤: そうですね。当社は20数年前から、新卒で正社員を採用しています。彼らをスポーツのコーチとして育成してきました。一生懸命勉強していますし、研修も実施しています。
“学び仲間”になる
二宮: 中竹さんは、かつて高校ラグビーの指導者と合宿を共にした時、練習前後のミーティングをそれぞれ2、3時間かけていたら、コーチ陣から「寝かせろ!」とクレームが入ったそうですね。
中竹: 夜遅くまでミーティングして、朝早くからミーティングを行ないました。しかしコーチ陣にとっては夜の宴会も楽しみのひとつであり、重要な文化だったからです。私もそれを理解し、その時間をつくれるように調整をしました。
二宮: いわゆる飲みニケーションですね。
中竹: おっしゃる通りです。飲んで分かり合えることもある。また当時私はコーチングディレクターとして、コーチ陣を指導する立場でしたが、飲みの場ではひとりの人間同士の付き合いに変わる。そういったコミュニケーションもとても大事なんです。
二宮: 中学校・高校の教員は、大学を出て22、23歳で「先生」「指導者」と呼ばれる。それによって肩肘を張らざるを得なくなる側面もある。
中竹: まさにそうですね。私の仕事はコーチをコーチすること。専門的に言うと、コーチディベロッパーです。2019年まではラグビー協会としての役職はコーチングディレクターでしたが、アカデミックな領域で言えばコーチディベロッパー。昨年(2025年)も2年に1度行なわれているICCE(International Council for Coaching Excellence)という「スポーツコーチング」のカンファレンスに参加しましたが、そこで各国のコーチディベロッパーたちとは「いいコーチを育てなければ、スポーツはダメになる」という話をしました。その「いいコーチ」の条件は何か。それは学ぶ人。コーチディベロッパーの役割は、コーチに学びを提供することです。二宮さんが言うように「指導者」「先生」という肩書きに囚われ過ぎると学ぶことを忘れてしまう。
二宮: 他者に教えるということばかりに目を向けてしまうということですね。
中竹: その通りです。私がラグビー協会でコーチングディレクターに就任した後、各指導者の方々に伝えたのは「皆さんは教えるプロです。これからは学ぶプロになりましょう」ということ。これが一番響いたことだと思います。コーチング合宿に最初に集まった30人とは戦いでした。途中から皆さん、貪欲に学んでくれた。今でも厚い信頼関係を築
けているのは、私自身も含め、皆さんが“学び仲間”になることができたからです。
二宮: 学び合うことが大事。まさに、その通りだと思います。教えたり、学んだりはインタラクティブにやらなければいけないことですよね。コーチディベロッパーという仕事は初めて知りました。
伊藤: 私もです。当社の社員も“これでいい”じゃなく、ずっと学び続けている者が実績をあげています。それは経営者も同じ。だから、学ばない経営者の会社は廃れていく。常に学び続けている人の会社が残るということと、一緒だと感じました。
ボトムアップ型の組織づくり
二宮: ラグビー界に限らず、体育会系のスポーツには、未だに先輩・後輩の序列があります。中竹さんに対する反発もあったんじゃないですか?
中竹: もう反発しかなかったですね 。今まで地域の親分的な存在やトップの方々は、教わることがなかった。その人たちの誤解を解いてきたのは、一応、私の肩書きはコーチディレクターですが、教える人ではないということ。「皆さんが学びを得る、場作りをする人なんです」と何度も言いましたが、言葉だけでは伝わらなかった。コミュニケーションを重ね、学ぶ場作りを徹底し続けたことで、皆さんに理解していただけた。そのおかげで現在のラグビー界の発展があると思っています。
二宮: かつてのスポーツ界は、指導者が強烈なリーダーシップを発揮し、引っ張っていくプルトップ型が主体でした。近年はボトムアップ型、フォロワーシップ型に変わりつつある。
中竹: そうですね。現場でもその変化は感じますね。例えば2023年夏の甲子園で優勝した慶応高校野球部の森林(貴彦)監督は、選手の自主性を重んじるフォロワーシップ型です。その指導法がメディアに取り上げられるようになってきて、“こういうやり方もあるんだな”と、少しずつ広がってきている気がしますね。
二宮: サッカー日本代表の森保一監督も「自分は監督係。皆の意見を聞いて、誰かが最後は決めなきゃいけない。それを担っているだけです」と話していました。これも完全なフォロワーシップ型で、かつ結果を出していますね。
伊藤: 当社もボトムアップ型です。ワンマンな会社はその社長の器以上には大きくならないと思うんです。ところが英知を結集し、意見を出し合うことができれば、会社は成長していく。今、話を聞いていて企業経営も全く同じだと思いました。
二宮: リーフラスが成長した理由はそこだったんですね。
伊藤: スポーツスクール事業は13種目を展開しているのですが、社員から「この種目をやりたい」という声を拾っています。あとは社員全員を「さん」付けで呼んでいます。それはなるべく意見を言いやすいようにするためです。当社は体育会系の風土を全部否定し、ボトムアップ型で、ここまできました。
中竹: 会社の風土がきちんと醸成されていれば、コーチの方が現場に行った際のマネジメントにもつながるのでしょうね。
伊藤: そうなんです。そうすると社員、コーチは子どもたちにも同じように接する。自発的に考えさせる仕事を徹底できていると思います。
二宮: 社風が現場に反映されているんですね。
中竹: 普段所属している文化が、現場にも伝播していきますもんね。
伊藤: ありがとうございます。それが我々のやり方で、昔から今も大事にしていることです。
(鼎談構成・写真/杉浦泰介)
<中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)プロフィール>
株式会社チームボックス代表取締役CEO、日本オリンピック委員会(JOC)サービスマネージャー。1973年、福岡県出身。早稲田大学ラグビー蹴球部では主将として準優勝、監督就任後は「フォロワーシップ」論を用い大学選手権2連覇を達成。英国レスター大学大学院社会学修士。三菱総合研究所、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターを経て、株式会社チームボックス設立。「成人発達理論」を基盤に経営層の「アンラーン」と本質的な「行動変容」を支援している。現在はJOCサービスマネージャーとして全競技の指導者育成を主導するほか、一般社団法人スポーツコーチングJapan代表理事も務める。著書に『ウィニングカルチャー』、『アンラーン戦略』(ダイヤモンド社)、『「人の器」の磨き方』(共著・日本能率協会マネジメントセンター)等。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数は3年連続国内No.1、部活動受託校数も国内No.1(※1)の実績を誇る(2024年12月現在)。2025年10月、日本のスポーツ企業として初めてNASDAQに上場を果たす。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士前期課程修了、同後期課程単位取得。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。
※1
*スポーツスクールの会員数3年連続 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*部活動受託校数 国内No.1
・部活動支援事業売上高、上位3社の2024年の受託校数を比較
株式会社 東京商工リサーチ調べ 2024年12月時点